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眼下に ヤツらは皆、俺の姿を見上げては恐れ 俺はそういうヤツらを 竜王たる俺様の前では何もかもが なるほど、ニアラが面白がって殺す気持ちも分からんでもない。 だが、そのニアラの方が問題だ。俺は惰弱な人間などよりもヤツの方が気に食わない。 口にする事さえ 竜を 神だの金色だのというヤツの肩書などどうでもいいが、何よりも許せないのは俺様を道具として使っている事だ! 俺は俺の意志に反して強制的に命令される事が我慢ならない! 誇り高き竜王たるこの俺様を手駒として扱うその 戦いならば俺のほうが強い! 俺はあんな臆病者に負けはしない! 自らが戦場にも出ずに高みの見物を決め込んでいる程度のヤツが、俺に勝てるわけがないのだ。 ニアラめ! 憎むべきはヤツだ! この竜支配の力さえなければ俺がヤツを殺してくれるっ! 殺意の限りを込めた 「くそっ! ナガレ! しっかりしろ! 死ぬんじゃねぇ!」 ある日、攻め込んできた人間の戦士が居た。たった2人だというのに、俺はこれまで体験した事のない苦戦を強いられた。 俺自身も人間をナメていたというのはあるが、その強さは俺の想像を遥かに越えるモノだったのだ。 「ナガレのカタキ、は…俺、が……! 俺が必ず…!」 なんとか一人を殺したが、それでも戦いの主軸となって攻撃を担当していた人間、この”ガトウ”と呼ばれていた戦士は、身震いさせる程の力量を見せ付けた。一撃一撃が俺がいままで戦ったどの竜よりも強い。…まさか人間などが、この俺を瀕死にまで追い込むとは想像すら及ばなかった。 俺はそいつとの死闘に全力を注いだ。 最強と自負し、他の七竜の頂点に立つ竜王たるこの俺の攻撃を耐え凌ぐどころか、反撃してくる。 ガトウはまさに脅威と呼んでもよい程のツワモノだった。 ヤツのとてつもない攻撃により俺の身体はズタズタに切り裂かれ、体液が だが、そこに湧き上がる感情は後悔ではない、 俺は傷の痛みよりも、この戦いに楽しんでいた! これこそ俺の求めた戦いだ! 戦士が グハッ──ッ! しかしすでに勝負はついている。 数時間にも及ぶ壮絶な死闘で、ガトウという人間は俺以上のダメージを負っていたからだ。これまで見せていた俊敏かつ機敏な動きは完全に停止していた。すでに戦闘能力はゼロと言ってもよいだろう。 俺とガトウの強さはほぼ互角だった。破壊力や俊敏さを総合してみれば戦闘能力に差はなかった。しかし、竜という種の持つ生命力は明らかに俺に歩があった。だからこそ、もう一人も殺すことが出来たし、ダメージを負った状態でガトウと一騎打ちになっても対等に渡り合えたのだ。 だが、この種族の差というハンデは、ガトウらが二人で俺と戦ったことで そして…、この一撃でその戦いの幕は降りる。 ガトウよ、キサマはよく戦った。誇りに思え。俺はこの強き戦士を讃えるために、この一撃に最大の威力を込めよう。 俺は勝利という幕切れを果たすため、その鋭利な爪を振り下ろそうとした。 ──その時、たった一人の邪魔者が現れた! 「ガ、ガトウさん! 大丈夫で───!! ひっ! ウォークライ!?」 勢いよく駆け込んで来たのは人間のメスだ。しかし俺の姿を見て動揺している。明確な恐怖を抱いているようだ。 …確かコイツは見た事があるな。そうだ、少し前にまとめて殺した戦士どもの中で、唯一トドメを刺しそこなったヤツだ。 ふん、馬鹿どもめ。こんな役立たずを生かして何になるというのだ? 「お前、新人の! 応援に来たのか!?」 傷ついたガトウがメスに…、いや、小娘に向かって声を投げるが、当人は眼前の俺に圧倒され、声も出せない状態であるようだ。身体を震わせ、足元すら ならば、ガトウにトドメを刺す邪魔をされる前に潰しておく。どちらにせよ、戦場で 『GRooooooo!』 「ひ、あ! い、いや──! 助け…っ!」 俺の 「動け! 新人っ! なんのためにここへ来た!! 戦って見せろ!」 ガトウの声が届いた。それに反応したかのような小娘が落ち着きを取り戻す。そして怯えを抱いたまま、武器へと手を伸ばした。…しかし、その構えは明らかに逃げ腰であり、まともな戦闘が出来るのかすら怪しいものだった。 ククク…、まあいい。戦士として戦うというのなら俺に異存はない。刃向かうのなら破壊するだけだ。 そして、 『GUoooooooo!!』 さあ、小娘! 戦場で武器を振るうというのなら、力の全てを俺に見せてみろ! 張り詰めた空気と闘気が戦場を支配する。小娘は構えたまま動かない。俺の出方を 最初に動いたのは俺だ。真正面より自慢の爪を振るう! 小娘は力を込めた足で大地で蹴り、突撃してくる! 俺の 次の瞬間、背中に大きな衝撃を受けた! それは小娘の持つ武器による一撃。あまりにも重いその攻撃は想像以上に俺の身体を傷つけ、さらに血を噴出させる。まるでガトウの一撃だ。いいや、それ以上かもしれない! 俺は小娘を振り払おうと尾を振るうが、すでに小娘の姿はそこにない。 左後方! そして 俺は圧倒的な強さ 油断はなかった。俺は完全に一撃で仕留められるだけの力を振るったのだ。 だというのに、どうなっている!? 「…あ、あの新人、なんて ガトウの 俺の 満足に戦えたなら一撃すら入れさせる事はなかったはずだ。ちくしょう! この傷さえなければ、体力が万全であるならば、かつてない程に素晴らしい戦いが楽しめたというのに! 確かにこれが完全なる勝負というのであれば、死したとしても存分に戦えた事は戦士としての誇りだ。その運命は受け入れよう。 だが、俺の意思を ここで死ぬわけにはいかない! 俺はガトウや小娘と存分に戦いたいという願望以上に真竜ニアラを憎んでいる。あのクソ野郎だけは神の座より引きずり降ろさなければならない。戦士の誇りすら足蹴にするあの この戦場に降り立ち、ガトウと戦えた事は幸運であったが、それはニアラへの感謝ではなく、結果的にそうなっただけだ。たとえ勝利を手にしたとしても、このままヤツの支配下に置かれている俺は、いつまでも道具として使われ続ける。そのような呪縛は絶対に許せない! 俺はあくまで自由の身として強者と戦いたい。 そんな考えを 死んでたまるか。 俺はヤツを、ニアラ殺すまで死ぬわけにはいかない。殺されてやるわけにはいかないのだ! ニアラを殺すまで死なない! 死んではならない! 絶対にだ!! 『Guo……Oooooooooooooooooooo!!』 その心の叫びが それは燃え尽きようとする俺の命の灯火が激しく燃え上がらせたもの。俺の最後の一撃を許す精神の力! 眼下には、この咆哮に放心したように震えている小娘がいた! ならばこの期は逃さない!! まだ動く右前足(右腕)を大きく振り上げ、渾身の力で叩き付ける! 俺は勝つのだ! そして生き残るっ! 「───新人っ! 避けろ!!」 「ぁぁぁ…、…わあああああああああっ!!」 ガトウの声に反応し、遅れながらも動いた小娘。しかしもう遅い! 俺の爪はキサマを逃さない!! それは…偶然だったかもしれない。 小娘が恐怖のあまり腰が砕けて座り込むのと、俺の爪が小娘に届くタイミングとが奇跡のように重なった。 「…、ひっ! あ…がはっ───………っ!」 頭部ごと削り取るはずの爪の切っ先がほんの 傷つけられた顔から赤の 絶大な攻撃力のほとんどを”空振り”という形で終えた俺は、そのまま力尽きて倒れて意識を薄めていく…。 体の感覚がない。周囲は 脈打つ これが死、というものか…。 俺はこのまま朽ち果てるのか。 くそっ…ニアラ…め……! 俺が! 俺様が必ず……キサマを……殺し…て……やる…。 ちく…しょ……う………。 BGM:セブンスドラゴン2020「束の間の安息」(サントラDisk:1・08) 「ん……」 俺は深い眠りから あれから、どうなったのか? 小娘にトドメを刺せたのか? それとも負けたのか? ガトウはどうなった?? ひとまず生きてはいるらしい。意識をすれば心臓の 生きている、という事はすなわち、勝った、という事になる。 少なくともあの小娘は殺す事ができたのだろう。そうでなければ生きている理由が思いつかない。 「ふぁ…ううん…」 とても眠い。まだ眠っていたい。…しかし、それ以上に 「ん? いや待て、そういう違い以前に凄まじく違和感があるぞ? 竜がなぜ いやいやいやいや、待て! 凄くどころか、かなり変だ。間違いなくおかしい! 身体の感覚そのものがまるで違う。その異常性を感じ取り、緩やかに覚醒しつつあった意識を無理矢理引き起こして飛び起きる! 俺は腕で身体を支え、上体を起した。 …最初に目に入ったのそこは、見た事のない場所だった。 山岳の巣穴でないのは間違いない。全体的に白く、やけに平らな壁の囲う妙な場所。とてもじゃないが洞穴ではない。 それに俺が寝ている地面は岩とは思えぬ程に 俺様は激しく混乱しながらも周囲を見回す。すると寝ていた真後ろ壁に …なんと、あの小娘の姿だった! ヤツはあの時のままの姿で、俺と同じように驚き、こちらを見ている。 くそっ! 生きてやがったのか! 何がどうなっているのか分からんが、今すぐ殺してやる! 俺は勢いのまま小娘に向かって破壊の爪を振り下ろす! ……が、 ゴチッ! 彡☆ という痛々しい音と共に頭部をぶつけた。目の前がチカチカと明滅する。目から火花が出るというのはこういう事なのか。頭が割れそうだ。 し、しかし、これはどういう事だ? 岩や鉄に当たったのならば、俺様の いやはともかく、…それも重要なのだが、今はひたすらに痛い。涙が出るほど ぐす…、ちくしょう! なんというか完全に何かがおかしいのは確定的だ! ぶつけた額を押さえて寝床を転がり なんだか、嫌な違和感を感じる…。 なんとなく…、俺が腕を振り上げてみると小娘も同じように振り上げた。 …不思議だ。まるっきり同じ動きをする。 次に俺は身体を遠ざけてみると、小娘も同じタイミングでそこを離れる。移動距離まで同じである。 うむー…。 顔に触るとヤツも顔に触る。俺の行動を真似ている…という気がしないのはナゼだ? 俺の動きを正確に再現し、俺が動いたそのままに小娘が動く。首を真横に傾げてみれば、ヤツもその通りに首を傾げる…。 おい、ちょっと待て!! これはもしかして術ではなく、術なんかではなく、壁面にくっついているだけの”姿を映す道具”…ではないのか? ……………なんだ、これは? どういう事だ?! もしかして、もしかすると…。 俺は身体の至るところを触りまくる。 細い腕、細い体、細くて長い足、頭部から生えた黒い糸、…これは髪だったか? 何がどうなっているのだ? これではまるで…。 俺はいつの間にか小娘になっていた、…らしい。 どうしてこうなった?
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