|
BGM:FC「海港都市ルーアン」(サントラ1・23) 翌日───、早朝。 「暴れたのは悪かったけど、こちらは被害者よ! それにこの男が犯罪者だって容疑は晴れてないんですからね!」 「だから、俺じゃねえって言ってるだろうが!」 ボロボロになった遊撃士協会の1Fに僕を含む4人がイスを並べて座っている。壊れた導力灯が照らす室内にいるのは、包帯まみれになったアガット先輩、頭ボサボサのエリカ博士、事後処理で徹夜をしたジャンさんは、防災ヘルメットをかぶったまま…、そして顔がぷっくりと晴れ上がって別人のようになった僕でした。 頑張ったつもりだったんだけど、それでも顔に痛手を受けてしまった僕。名誉の負傷とでも言うべきでしょうか? …もしあの時、別の行動以外を選んでいたら、こんな顔にはならなかったのかもしれないと思えば思うほど、あの選択を間違えたのかと残念っス。 まさか、どんな選択をしても、この美しい顔が焼きたてふっくらアンパンのようになるわけでもないだろうし。 ははははは、まさかまさか、さすがにそれはないはず。…あの時、別の選択をしてればと悔やまれてならない。 まあ、ルーアンの被害も大した事なかったし、ボロボロになったのはここだけだって話だから、仕方ないか〜。 「落ち着いてください、エリカ博士。アガットがティータちゃんに何かをした、という容疑は成立しないんです。彼にアリバイがあります。」 と、これはジャンさん。目の下に 「ふん、組織内の同僚がアリバイを証明? 笑わせるんじゃないわよ。そんなの庇ってるだけで、嘘を言ってない証拠があるわけないじゃない。」 「いえ、本当にアガットは同僚に海辺まで呼び出されていたんです。」 「なんでそんな場所まで出向くのよ。遊撃士ならここで話せばいいじゃない。違う?」 「あー、いや…、それはだな、オアネラっていう遊撃士の女が…。」 返答に苦しむアガット先輩、。う〜む、エリカ博士のツッコミもわかる。オアネラがどういう奴かを知らない人から見れば、遊撃士同士でのイザコザを理由にするのは理解できないだろう。もしそうだとしても、内部的な話で一般人には関係がない。 とにかく全てはオアネラが仕組んだ事だ。あれをなんとかしなくちゃ話にならない。 「それにティータだってまだ目を覚まさないのよ? あれの説明だって理解できないわ!」 「いや、それなんですが…。先ほども説明したとおりで…。」 そうなのだ。一晩経ったというのに彼女はまだ目を覚まさない。それはクルツ先輩もそうで、丸一日以上を過ぎても眠ったままだった。しかし、この症状の原因はすぐに判明した。 「新薬、アファロミン…ねぇ。」 なんでも、帝国で開発されている新薬で、現在は臨床検査をしている最中らしく世間には出回っていないものらしい。元々は軍兵士に支給されるはずの薬で、精神が高ぶっている兵士を無理矢理眠らせるためのものなんだそうだ。薬の成分バランスで睡眠の時間設定が出来るんだって。もちろん疲労をそれ以上に回復させる。軍人さんには便利だよね。 「非常に便利なのだけど欠点があり、設定時間の間はけして目を覚まさないという…事なんですよ。」 だからこその試薬品。それをジャンさんが調べて判明したんだけど、どうやらオアネラはこれを使ったみたいなんだよね。クルツ先輩も眠ったままなのも、ティータちゃんも眠っているのもこれのせい。 「そういう話をしてるんじゃないわよ! なんで遊撃士がそういう事をするのかって聞いてんのよ!!」 お怒りはごもっとも。これじゃあ信用されないのも無理は無い。オアネラがいない以上、弁解もできやしない。 そして、薬で眠っている間に何をしても目を覚まさない以上、ティータちゃんを毒牙にかけても目を覚まさないのだから抵抗される心配もない。とにかく容疑を晴らそうにもオアネラが自分からやったと言わない以上、解決しないわけで…。 くっそ〜〜〜〜、あの女、 「ふん、どちらにしろ遊撃士協会本部には報告するけどね。ルーアン支部の遊撃士がそういう危険な薬を悪用しましたってね。一般市民からの苦情として、受け止めてもらうわ。」 「てめえ…、わかんねぇ女だな! だから俺は何もしちゃいねえっ!」 黙っていたアガット先輩は、ついに爆発したかのようにエリカ博士へと食ってかかった。しかし彼女は落ち着いた様子で、いや、腹に何か溜め込んだ様子でそれを返す。 「…あんた勘違いしてるんじゃない?」 「な、何がだ?」 「ティータと少しばかり仲がいいからって、何かが起こっても、それで家族の理解が簡単に得られると思ってるわけ? 理解を得たいのならまず、遊撃士らしく証拠を見せるべきじゃないの? 無実だと言い張るなら、そのオアネラとかいう遊撃士を連れてくるのね。それなら話に乗ってやってもいいわ。」 「っ………。」 そう言われれば反論もできない。そもそもこれらは内輪もめ的な問題だし、それで知り合いとはいえ市民を巻き込んでしまっている事実。これはどうにも 容疑を晴らすにしても、それはけしてプラスに好転しない問題だ。…おのれオアネラめ…。 それにしても、どこへ行ったんだろう? 僕らに隠れて、また何か 「おー、すっげー壊れてるぞ? 何があったんだ?」 「やめなさいよ、クラム!」 ちょうどそこへ、小さな声が届いた。聞き覚えバッチリのこの声は、マーシア孤児院の子供達、クラム君とマリィちゃん達だ。たまにルーアンに遊びに来るんだけど、いやはや、こんなシビアな場面で遊びに来るとは困ったっスね。 当然ながら、 あ、そうだ。せっかくこんな「むくれ顔」なんだから、少し 「うーーーがーーーー! ふっくらアンパーーン怪獣だぞーーー!」 「ぎゃああ!! オバケーー!!」 入り口に集まっていた子供達はクモの子を散らすように逃げていった。……そんなに怖いっスか? いまの僕の顔。 しかし、全員逃げたと思っていた中で、一人だけ不思議そうな顔をして残っている子がいた。頭についた赤いリボンの最年少、ポーリィちゃんだ。 「あれ? ポーリィちゃん怖くないスか? ふっくらアンパン怪獣。怖いぞ〜、恐ろしいぞー?」 「メルツちゃん、変な顔〜〜。」 改めて言われると落ち込んでしまう。あうう、そんな純粋な顔で僕を見ないで…。 「ホッホホッ、遊んでもらえて良かったのう。」 おや? なんだか知らない声が聞こえるぞ? 僕がそちらへと顔を向けると、そこには見知らぬご老体がいた。杖をついたお爺さんで 「すまんですねぇ。道に迷ってしまったものでして…。」 「………えーと、どなた様っスかね?」 「実は今日、こちらにお 「ジイちゃん迷ってたんだよなー。俺達が道案内したんだぜ。」 そこで口を 「あっ!! もしかして、クルツ先輩が言ってたカルバードの要人とかいう人!?」 「要人というのは ───姿を見せないオアネラ。そして未だ眠り続けるクルツ先輩。ティータちゃんも眠ったままで、エリカ博士は暴走気味。どうにも困った状況の中で登場したこの老人、ロズート=エペランガさん…。 彼はこの状況を打開する何かを持っているというのだろうか? それとも…?
|