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僕とオアネラは海岸にいた。そこはアガット先輩とあの女が戦ったのと同じ場所。そしてその先輩がコテンパンに叩きのめされた場所でもある。唯一の違いは、まだ昼間である事。広くは晴れ渡る空の下、白く美しい宝石のような砂浜で、僕らは対峙していた。
骨折の痛みがどんどん激しくなっていく中で、僕はそれでも集中力を切らす事無くオアネラを睨んでいる…。 「チェリーにはハンデをやろう。ぶっちゃけた話、アタシの得意技【ディアボロス・オー】は昼間だと使えない。あくまで夜専用のアーツなんだ。だからあれはナシで戦ってやるさ。」 「何がアーツっすか。あれは幻術だって聞いたっス。どこまでが本当なのか分かったもんじゃない。」 オアネラの言う事はどこまでが本当かアヤシイ。夜専用だというのも信じるわけにはいかないし、あれナシで戦うという言葉も信用できない。もちろん、使わなくとも余裕で勝てるという自信があるんだろうけど、それでも警戒するに越した事はないはずだ。 僕は砂の感触を足に馴染ませるように、何度か足場を踏みしめた。前にカルナ先輩から教わった事だけど、砂浜という足場は思った以上に体力を削るものらしい。勢いをつけるには、柔らかい砂を強く踏みつける必要があるから、接近戦を挑む場合は短期決戦を念頭に置かないと、すぐに体力が切れてしまうんだとか。 もちろん、僕は弱し、体力だって劣っている。それに加えていまは骨折状態でとてもじゃないけど万全には程遠い。 だから、短期決戦しか挑む事ができない。加えて、僕がほんの一握りでも勝利する可能性があるのは、オアネラが油断している今の一瞬しかないと思う。どちらにせよ、最初の一撃で決めるくらいの勢いがなければ勝てない。 「さあ、楽しませてちょうだい、チェリー君。どんな卑怯な手を使ってもいいわよぉ、どんどん攻めてきな。興味があればアタシのこの豊満なバストを揉みくだしてもいいわよん☆」 完全に馬鹿にされている。けど、僕だって負けるわけにはいかないっス! どうあっても勝つ! …いや、例え引き分けだろうと、何があろうとも、あの女を足止めしなきゃならないっス。 「余裕でいられるのも、いまのうちっスよ。」 「ケェッへへへ…。期待しちゃうわ。いくらでも頑張って頂戴。」 ───そして戦いが幕を開ける。紛れも無く最後の戦い。 ここで流れる曲はもちろん…、空の軌跡シリーズの代表的なあの曲っス!! BGM:FC「消え行く星」(サントラ1・22) ちょっと待つっス!!! なんでゲームオーバーの曲なんスか! おかしいじゃないの?! なんで戦う前から敗北の曲流すの!? まるで戦うまでもなく僕が負けるって言ってるみたいじゃないのさ! いくらなんでもあんまりでしょ! 最後だよ? これ正真正銘、リベール編で最後のバトルっスよ? 最後はどう考えても「銀の意志」じゃないんスか? 読者もそれ望んでるでしょ。どうなの? BGM:FC「消え行く星」(サントラ1・22) だからなんで、ゲームオーバーの曲なんスかっ! 頭くんなぁもう! 僕が脇役だからって馬鹿にしてんの!? 銀の意志なんて勿体(もったい)ないっていう事なの!? BGM:FC「銀の意志」(サントラ2・14) そうそう、そうですよ! この曲ですよ! 最初からこうすれば良かったんスよ。 なんだよ、もったいぶってさぁ……。 …え? サントラCDをDisk2に入れ替えるのが面倒? PCにインストールしとけばいいじゃないスか!! なんっだよもうっ!! …せっかく前話のラストからシリアスでいい感じに主人公っぽい扱いだったのにさぁ、全部おじゃんになってるじゃないのさ。ぶち壊しだよホントにさぁ…。最後くらいギャグなしでやろうよ。 コホン…、まったく。じゃあやっと本気で戦うっス。僕だってやる時はやるっス。こう見えてもシャムシール団の4人を5秒で倒す実力はあるんスからね。ラストバトルで粘るくらいの主人公度はあるつもりっス。 そう! 脇役でも輝ける、それが英雄伝説という作品の大きな魅力なのだと────。 「スキありっ!」 「ぐぼぁぁぁぁぁーーーー!」 …その瞬間、弾丸のように突っ込んできたオアネラの一撃が僕の下半身にある、ああああああに直撃した!! 男性にとってもっとも過酷なウイークポイントである重要文化財が、僕の大事なウイークポイントが、今まさに悲鳴を上げている!! あまりにも容赦ない攻撃にもんどり打って転げ回る僕は、いま最高に格好悪い。 BGM:FC「レイストン要塞」(サントラ2・06) …な、なな…なんという結果だろうか? 最初の一撃で勝つとか、粘って勝つとか考えるまでもなく、僕は一撃の下に倒されてしまった。あまりの激痛に呻き声も出ず、脂汗を滲ませ砂浜に這いつくばっている…。 「あら、ざーんねん。このアタシが油断するとか考えたわけ? 遊んで時間をかけるとか考えてた? あらあら〜、残念だったわねぇ〜。 ぶっちゃけ言うとぉ、あんたみたいな子雑魚相手に遊んでやるヒマなんかないって思わない?」 「むぐぐぐぐぐぐぐぐぐ〜〜……。」 考えが駄々漏れだった。僕の浅知恵など、最初からお見通しだったというわけだ。 「それに、骨折したガキを虐めて遊ぶ趣味もないしね〜。そういう残忍なイジメは趣味じゃないわけよ。やるからには、もっと陰惨にやりたいわけよ。分かるかしら?」 チクショー! なんてこった! 本当にもうトンデモナイ女だ! 考えていた以上に悪魔っス! くそぉ〜、しかし、こんなにアッサリ倒せるのなら、なんで砂浜まで連れてきたんスかね? この程度で終わるなら、戦うために砂浜へ移動する意味なんてないじゃないスか。 「本当はもーちょっと遊んでやる予定だったのよね。でもほら、本命が到着しちゃったし。」 「…へ?」 オアネラが向いたその方向、街道には一人の男が立っていた。それはもちろん、アガット先輩だったっス! 先輩の表情は穏やかだった。怒りに満ちているわけでもなく、悲しみに打ちひしがれているわけでもない。ただ、何か大きな決意をしているかのような、そんな瞳をしていた。 「あらぁん♪ ラブレターは読んでくれたみたいね。女から告白するなんてぇ、恥ずかしい事させないでよぉ。」 「…………。」 そんなオアネラのムカつく口調にも動じる事はなく、アガット先輩はただ黙したまま、こちらへと歩いてくる。なんだろう? まるでオアネラの挑発も気にしていないかのような、そんな静けさだ。 「おい、メルツ。立てるか?」 「は、はい…、まあ、なんとか…。」 そんな不思議なアガット先輩は、転がる僕に手を貸してくれた。呆気に取られていた僕に手を貸してくれた先輩は、少し離れていろ、と言うと、そのままオアネラに向き合う。いままでの事を考えれば、すぐにでも逆上してもおかしくないはずなのに、先輩は静かなままで呟いた。 「オアネラさんよ、後輩イジメの度が過ぎるんじゃないか?」 「いいや、これは”かわいがり”というヤツさ。先輩が後輩へ愛ある指導をする。いわば愛の鞭ってヤツよ。」 先輩の指摘にも、しれっとした態度を崩さないオアネラ。見ていて本当に腹が立つ。しかし、アガット先輩もなんだかおかしな事を言う。 「…そうなのかもしれねぇな。少なくとも俺は、それで気づかされた事がある。お前の行動にどんな意図があるかまでは知らねぇが、それでも学ぶべき事は多かった。感謝する。」 なんと!! 驚くべき事に、アガット先輩はオアネラへと感謝の意を述べたではありませんか! 一体どういう事なの!? あんなにまでコケにされて、あれだけ迷惑をかけまくって、それで怒らないの!? そんなのおかしいよ! 僕はたまらず叫んだ。 「アガット先輩! なんでそんなヤツに感謝しなくちゃいけないんスか! そいつは遊撃士かもしれないけど、トンデモなく悪いヤツっスよ! 感謝なんてする事ないっス!」 「…いや、これに関しては礼を言うべきだ。俺の見えていなかった欠点が露呈した。今回の件はそういう事なんだ。」 だからって謝るなんて、そんなの先輩らしくない。アガット先輩はいつでもガーーーーっと勢いで行動しちゃう人だと思ってたのに。遊撃士として筋は通すけど、それでも力で押せる場面は一気に攻め込むような、そんな解決が似合う人だったのに! 「あらま、随分と殊勝じゃあないのさ。…でも、それだけじゃないんだろう?」 「………。」 オアネラの態度は変わらない。そしてアガット先輩は無言のまま、懐から一枚の紙を取り出した。それは遊撃士協会で使われる報告書だった。そして淡々と語り始める…。 「オアネラ=エペランガ。幼少時から術の才覚があったアンタは、16歳で遊撃士資格を得る。当時は期待の新人と持てはやされた。しかしその2年後、狂信者集団”ダリウスの信徒”らの反乱による自爆テロ事件にて同支部の仲間を失う。…その時、その信徒を手引きしたのは同支部の遊撃士ロズート=エペランガ。だが、手引きした彼諸共に裏切りに合い、爆死…。」 「あんたはそれ以後、各国の遊撃士協会を転々としながら、遊撃士の不正を発見しては潰すという行動を繰り返す。裏切者の子という事実から多くの批難を浴びながらも、組織浄化に貢献したという理由で独立権限を与えられ、秘密裏に動く査察官となる…。」 「10年前、俺の前に現れた頃にはもう、アンタは査察官として動いていたんだな。…当時の俺は、ただの迷惑女としか思ってなかったが、考えてみればクルツの査察に来ていたと考えれば納得できる。仕事の性質上、公開されては都合が悪い。…だから今回のように、クソ女を演じ続けた。ただ厄介な気まぐれ女だと思わせるために。」 いきなりの事実に、僕の頭は真っ白になった。 なにそれ? いきなり何だっていうのさ。自爆テロで仲間を失った? 手引きしたのが父親で、各国を転々としていた?? ははは…、それがオアネラだっていうの? いまのあの、フザけた態度のあいつが芝居だって言うの? 僕は嘘だと思いながらも、アガット先輩を見る。だけどその表情は嘘があるようには見えない。 「ハハ〜ン、そりゃあ懐かしい話だわ。それで? 女の過去を暴いてどうしようっていうの? 同情した? それとも惚れちゃった? いやぁん、もしかして欲情なんかしちゃったりぃ〜??」 「いいや、違う。…アンタはスゲぇなと思ったんだ。」 アガット先輩は、独白するようにオアネラへとそれを告げる。 「俺は過去に捕らわれながらも、それでも成長したつもりでいた。前を向いて信念を貫いているつもりだった。だが、遊撃士の身内だという事、それにアンタの表面的な態度にすっかり丸め込まれて冷静さを欠いた。そしてその結果、今の自分が大切にしているモノが傷ついた。」 「ティータを傷つけたのは俺の失態だ。それはどうしようもなく事実だ。だから俺は、あんたを責めるべき立場にいない。俺の未熟が招いた結末だからだ。」 海からの風が頬を凪ぐ。昼時の、少し強い日差しの中で、アガット先輩は少しの目線も反らさずに言い切る。 「うわぁ、キモいわぁ。なにその独白? そんなの女の前でする話じゃないんじゃない? 30近いオッサンのくせに、青年の主張なんて口にする大人って怖くない? ケェヘヘヘヘヘ!」 それでも、そんな先輩を馬鹿にするオアネラ。正直言って腹が立つ以外の何者でもない。先輩が言ったオアネラの過去が本当に本当だったとしても、いまのこの女を前にしていると、とてもじゃないけど本当だと思えなかった。まだ先輩が騙されているんじゃないかとさえ思う。 「…俺はお前に学ぶべき点を見出した。確かにこれは俺の問題だ。」 「だけどな、遊撃士としてはお前を見逃すわけにはいかない。どんな理由があろうとも、ティータ…、いや、一般人をこんな案件に関わらせる事は間違っている。しかも傷を負わせるような大事を手伝わせるのは、明らかに度を越えている!!」 「しかも加害者容疑で検挙中であり、裁判も取り調べすら行われていないシャムシール団4名を独断のまま使い、勝手な司法取引を持ちかけた。そんなものは遊撃士として許されない事だ。」 先輩は背中から重剣を手にし、構えた。そして叫ぶ───! 「オアネラ=エペランガ! お前はやりすぎた! 俺は遊撃士として、お前を逮捕する!」 そうか…。アガット先輩は自分の過ちを素直に認めて、それでもなお、遊撃士としての職務を真っ当しようとしていたのか。オアネラに誘導されたからとはいえ、それを怒りのまま猪突猛進していては遊撃士は務まらない。怒りのまま突撃するのでもなく、ティータちゃんの恨みを晴らすでもなく、個人的な感情を押し殺し、それでもなお、遊撃士であろうとしたんだ。 「イーヒッヒッヒッヒッ!! なーによそれ? このアタシを逮捕するだぁ? 自分の罪は棚にあげ、それでアタシに矛先を向けたってわけ? 都合のいい問題のすり替えじゃあないの。違うかしら? ボウヤ。」 「いいや──。俺は自身の犯した過ちを一生かけて償っていく。もしティータに後遺症が残ろうとも、一生を共に付添っていく。そして今度こそ、俺が命を賭けて守ってみせる!」 「…それが、俺の正直な気持ちだ…。自分の責任から逃げたりはしない! だから、遊撃士という職務にも嘘を付くような事はできない! 今の自分が遊撃士である事に、嘘を付くわけにはいかねぇんだ!」 自分の罪、そして未熟を認めて、それでもなお敵に立ち向かう。それがアガット先輩の出した答えだった。 そうだ、そうだよっ! だから先輩は凄いんだ! どこまでも諦めず、困難に立ち向かう、それがアガット先輩の本当に凄いところなんだ。きっと僕が同じ立場だったらヘコたれて引きこもってしまうと思う。…だけど、先輩は自身の弱さを認識して、それでも前に進める人なんだ。 僕はいまでもカルナ先輩に怒られる。その度にヘコんでしまう。だけど、大切なのはその失敗をどうやって生かすのか? それを経験として自分に上乗せできるか、という問題なんだ。 つまり、遊撃士にとって大切なのは───、 1,失敗しても、まあいいやで済ませる適当さ 2,適度に笑いを取れる技術 3,先輩達の横暴な振る舞いを笑って見過ごせる強さ 違うっ!!! ぜんっぜん違うよ! どう考えてもコレじゃない。コレじゃないよっ!! こんな3択じゃない!っていうか、今までの流れと関係なくね? ……僕は、一体何を学んだんだろう? 僕はいままで何を聞いていたんだ? 今の話から、何を学んだというの? さっぱり身になっていないような気がしないでもないんだけど。むしろ、ここで話の腰を折るとか、ありえない気がしてならないんだけど…。 コホン! 僕の事は無視して、話を戻します。 そんな情けなさすぎる僕など入る余地もなく、二人は睨み合っていた。真剣な顔で重剣を向けるアガット先輩、そして全然まったく余裕のオアネラ。いつ戦闘が始まってもおかしくない状況だ。 だけど、アガット先輩はオアネラに勝てるのだろうか? あの幻術【ディアボロス・オー】が使えないというのが本当なら、前回のように不意打ちがない分」、先輩にも勝機はあると思うんだけど…。 なにせ相手はあのオアネラだ。あのトリッキーな戦い方を見ていれば、油断をする事なんて出来ない。 ───しかし、そんな思考を遮るかのように、その声は届いた。 「その勝負、待った!」 その場に居た全員が弾かれたようにその方向を向く! なんとそこにいたのは……。 「あ、クルツさんっス。」 そう、冒頭でオアネラに睡眠薬を飲まされ、ずっと眠っていた僕らの大先輩、クルツさんだった。確か飲まされた薬は2日間は目を覚まさないものだったはず。…そうか、あれから2日経ってたんだっけ。 クルツさんは苦しそうに腹を押さえながらも、急いだ様子でこちらへと走ってくる。あれ? なんでお腹押さえてるんだっけ? 何か思い当たる事が…。 いや、まったく憶えていない。まったく身に憶えもない。やっぱりなぁ…、クルツさん実力者なんだけど影が薄いからなぁ。きっと大した事じゃないでしょ。そのうち思い出すんじゃないかな。 そんな風に考えていると、彼はとんでもない報告をした! 「アガット、戦っている場合じゃない! ティータ君が危篤だそうだ!!」 「───なっ! なん…だ…って………?」 とんでもない発言に、その場に居た全員が驚く! 先輩や僕、それどころかオアネラさえも驚いていた。そして一番、気が動転していたのはアガット先輩だ。 「”ダリウスの信徒”と名乗る集団が、爆発物を投げ込んだ! それで安静にしていたティータ君もそれに巻き込まれた! 私はヤツらと交戦したんだが…、すまない!」 あ…、ダリウスの信徒って、まさか…さっきアガット先輩が言ってた…、オアネラの昔話で自爆テロ事件を起こしたっていう…。も、もしかしてオアネラを狙って!? 「おい…、クルツ…、冗談はやめろよ。ふざけるのも───。」 「間違いない!! 負傷者リストにティータ君の名前がある事も看護師に直接確認した!」 放心しかけながらも、それを否定しようとするアガット先輩。だがクルツさんが呻(うめ)くように事実を伝える。 「そそ、そんな…! だって、そいつら昔に事件を起こしたヤツラでしょ?! なんで、今頃…!! とっくに壊滅したんじゃないんスか?!」 僕のその問いに答えたのはクルツさんだ。クルツさんは負傷したと思われる腹を押さえ、苦痛な表情を浮かべて告げた。 「ダリススの信徒は壊滅なんてしていない。それどころか2年前から勢力を伸ばしているんだ。身喰らう蛇と比較すれば規模は大した事がない。しかし、目を離していい集団ではない。それどころか、自爆テロも辞さない恐ろしい集団だ。身喰らう蛇とはまた違った脅威を持つ集団なんだよ。」 「……………。」 僕は、言葉を失う。まさかこのリベールに、そんなヤツらが潜入していたなんて……。 「なんてこった! まさかヤツらは…まだアタシを狙ってたのか! さすがに笑えないわね。アガット、メルツ、あんた達は先に病院へ行きな! アタシは遊撃士協会へ行く! 情報を集めるわ!」 オアネラはいままでの腑抜けた態度とは一転、真剣な顔つきでそう指示する。アガット先輩はその言葉に背中を押されたかのように、一気に走り出した! 僕も動揺を隠せないまま、全速力で追いかける。目指す先はルーアン総合病院。ティータちゃんの下へ1秒でも早く! 僕は覚えてないけれど、どうやら、走りながら泣いていたらしい…。 何についてかわからないけれど、ただ、何かが、あまりにも悲しくて。 ほどなくして到着したルーアン総合病院。一見して被害の見えないが、今はそれを確認している間は無い。 病院の受付窓口へと飛びつき、先輩がティータちゃんのいる場所を問いただす。その恐ろしいまでの剣幕で困惑し、怯える看護師さんは最初、ティータという名前で分からなかったらしく、ラッセルという名でようやく部屋を教えてくれる。僕らは看護師さんらの動揺をヨソに、院内を全力疾走していた! 廊下は走らないように、とか、他の患者さんがいるとか、それは分かっている事なんだけど、それを気にしている余裕なんかなかった。間に合わなければならないからだ。きっとどんなに病状が悪くても、アガット先輩がいればティータちゃんは大丈夫だ。そう思えたから! 全速力なのに、さほど大きな病棟じゃないのに、なぜか長いと感じる道のり。 目指す病室は406号室。その個室で待っているティータちゃん。…だけど、なぜ個室なんだろうか? 容態が悪ければ集中治療室に居るはずなのに。もしかして…すでに…。 そしてとうとう、僕らは部屋へとたどり着く! 406号室、ここがその病室だ! 間違いないっ!! 駆け込もうとした時、中からエリカ博士が出てきた。口元を押さえながら、目に小さな涙を浮かべてている。僕らが来た事を驚いているようだ。 「なによ…あんた達───」 「ティータは! ティータは無事なのか!? エリカ! 頼む! 会わせてくれ!!」 「へ……、いきなり会わせろって…、何を…。」 「頼むっ!! この通りだ! 俺を…ティータに会わせてくれ! 頼む!!」 魂の懇願、そうとしか言えないような真剣さに、エリカ博士は戸惑っている。だけど、戸惑う時間さえ今は惜しい。 「僕からも頼むっス! エリカ博士、お願いだから先輩をティータちゃんに会わせてあげて欲しいっス!」 「…は? え? …何の話だか…。あ、そうだアガット! オアネラとかいう遊撃士は見つかったの?! ティータに会うなら、先にそっちの証拠を見せてもらわないと……。」 「ヒドイっス! エリカ博士!! こんな時までまだ先輩をイジメるんすか! いまはそれどころじゃなく、ティータちゃんの大事に立ち会うのが先決じゃあないんスかーーー! 鬼っ! 悪魔っ! おたんこなすっっ!」 「な、なんですってぇー!」 BGM:FC「賑やかに行こう」(サントラ2・18) 「あれ? お母さん、どうしたの?」 そこで、僕とアガット先輩が同時に固まった。そこに居たのは、紛れも無くティータちゃんだったからだ。しかも、しかもだ! 一昨日に会った時と変わらず、普通に元気なままだったからだ! …僕は、夢でも見ているのかと思った。 「あ、アガットさん! こんにちわ。メルツさんもこんにちわ。」 「はあ、えーと…こんにちわっス」 可愛らしいさもまったく変わらず、まばゆい天使のような微笑も同じままのティータちゃんは、いつものようにアガット先輩に会えて嬉しいという雰囲気もそのままだ。 「あれ? あの…あの…、どうしたんですか? 何かちょっと雰囲気が…??」 しかし、ようやくこちらの態度がおかしい事に気がついたのか、ティータちゃんが不思議そうにする。そしてエリカ博士も同時に首を傾げた。僕はどうにも噛み合っていないこの状況を確認しようとする。 「いや…、えーと僕らにもそれがさっぱり───」 「ティータ…、お前、無事なのか?」 僕を遮ったのは、いまだに呆然としているアガット先輩だった。先輩は、ただティータちゃんだけを見て、信じられないような顔をしている。 「怪我はないか? どこも痛くないか? 本当に…、無事なのか?」 ゆっくりと、片膝をつけるように目線を合わせ、真剣な表情で尋ねるアガット先輩。そんな先輩の真剣さを正面から受け止めたティータちゃんは、最初こそ驚いていたようだけど、それからニッコリと微笑んで言う。 「はいっ! どこも痛くないです。怪我もしてないです。えへへ…。」 「そう…か…。」 先輩はそれだけを言うと、こともあろうに! そのまま、その小さな身体をそっと抱きしめた。 「良かった───。お前が無事で、良かった……。」 「あ………。」 ふわりと抱きとめられたティータちゃんは、ほんの少しだけ顔を真っ赤にしていたけれど、先輩が本当に心配していたと分かったのか、そのまま自分からも少しだけ強く、先輩の身体へと手を回す…。 「………わたし…、元気です。心配してくれてありがとうございます。」 僕は良かった良かったと感動の涙を流していると、なんと、観客となっていた周囲の患者さんから、祝福のエールが送られてきた。そうだった! ここは入院患者さんがたくさんいる病棟なんだった!! 「ヒューヒュー! 若いねぇ! 青春だねぇ!」 「イヤツホウ! おめでとうっ! ティータちゃぁぁぁぁん!!」 「おやまぁ…、熱い熱い。こりゃあ大人しく入院してらんないねぇ!」 完全に見世物と化した二人。やっと我を取り戻したらしいアガット先輩は、さっきとはまた違った意味で取り乱し、違うだの、そうじゃないだの否定していた。一部の患者さんどころか、ついには看護師さんまで集まってきて、冷やかしタイムは延々と続いていた。 「ア〜〜〜ガッ〜〜〜トォォォォォォォ!!」 轟(ごう)っという唸(うね)りと共に、衝撃が炸裂した。それはアガット先輩のすぐ足元! リノリウム製の白い床は、その一撃で大きく破損していた。あと一瞬、先輩が飛びのくのが遅ければ、先輩のつま先は火傷では済まない傷を負っていた事だろう。 もちろんそれを発射したのはエリカ博士だ! その手に握られた導力銃は最新式のもの。カルナ姉さんが自慢していた帝国モデルと同型のものである。プロの遊撃士が自慢するその銃の威力は、完全無欠の折り紙付きだ。命中したらタダじゃ済まない。本気でヤバイ! 「お、お母さん! 危ないよぉ!」 ティータちゃんが止めるものの、これっぽっちも聞いちゃいないエリカ博士。その形相は鬼以上、悪魔以上、おたんこなす以上の恐ろしさを持っていた。 「ちょっと眠いだなんて、あくびしてる場合じゃなかったわ! この病原菌はいつ現れるか分かったもんじゃない!」 「お、おいエリカっ! 落ち着けっ!! これには深い理由がっ!」 「うちの可愛いティータにぃぃぃ、近づくなとあれほど言ったじゃないのぉぉぉぉぉぉ!!」 砲弾にも似た轟音が連続し、炸裂し、破片が飛び散る床…。病院の廊下は走ってもいけないけど、銃も乱射しちゃいけないような気がするんですけど…。 「話せばわかる! 頼むから落ち着け!!」 「大人しく、蒸発しなさい!!」 まるで昨日の光景を見ているかのように、既視感のあるその光景は、先輩の遁走(とんそう)という形で続いていた。窓から見下ろすと、もうすでに二人は庭を走っていた。ここ4Fなんだよ? どんだけ足速いんだろうね? 「よっ! 嬢ちゃん。昨日ぶりだね。」 「あ、遊撃士の査察官さん。こんにちわ。」 そこで現れたのは、さっき砂浜で別れたオアネラだった。そしてその後ろにはクルツさんもいる。嫌な予感がしてきた。これってもしかして、もしかしなくとも…。 「母ちゃんの検査結果は出たのかい?」 「はい。至って健康だってお医者さんが言ってました。えーと、えーと…、あそこで走ってます。」 「ふふふ…、ありゃあ健康そうだ。」 ??? これは一体どういう話になってるの? しかもオアネラとティータちゃん、メッチャ仲いいんだけど、これってどういう事なんスか? 何がどうなってるのか、サッパリ意味不明なんですけど…。 「なんだチェリー、お前まだ分かってなかったのかい?」 「なんだ?はないでしょ! 分かるわけないっスよ! 何がどうなってるのか全然分からないっス!」 また、からかわれてるよ! しかもクルツさんはその後ろで申し訳なさそうな顔してるし! 何かとてつもなく騙されてた気がするよ! 一体どういう事なのか、小一時間ほど問い詰めたい気分っス! …だけど、ティータちゃんも状況が飲み込めてないらしく、頭の上に?マークでも乗っているかのように首を傾げている。これはどう考えても、”罠だった”という事だけは理解できた。 「済まないな、メルツ君。さっきの危篤は芝居なんだよ。」 いや、クルツさんが自分からあんな芝居をするわけがない! どう考えても発案者はこの女だ。 「またアンタ、企んだんでしょ! どんだけ悪女なんスか! いい加減にしてよ!」 「いい勉強になっただろ? 金払っても出来ない事は、ありがたく受け止めるもんよ。」 そう口にしながらも、顔はニヤけているオアネラ。まったく…何が査察官なのさ! クルツさんにあんな芝居をさせたのも、強引にやらせたに違いない。くそっ! 何がダリウスの信徒なのさ! 勘弁してよ! 「…でも、クルツさん、迫真の演技だったっス。あんなにお腹痛そうにして、苦しそうな顔してるから、本当に襲撃されたものとばかり…。」 「ははは…、腹痛は本当だよ。昼前には起きたんだけど…、本当に痛くて動けなかったんだ。オアネラ嬢は最初、サーボックさんに頼むつもりだったんだけど、私の方が迫真の演技だろうと代役を申し付けられたんだ。不承不承ながら…ね。」 はぁ…、クルツさんでも上司には逆らえないって事っスか。 「あれ? じゃああの日のキスも演技なんスか?」 「そうよ〜ん☆ 恋人同士の再会に、甘〜い口づけは不可欠でしょ?」 「断じて違います。…勘弁してください、オアネラ査察官。」 どうやら、クルツさんが薬でやられたのは本当で、何か喋られる前に口封じしたらしい。そして手伝わせるためでもあったのか。…それで起きてから事情を説明されて協力させられた、と…。まったく信じられない女だよ…。 「ところでティータちゃんは、なんでこの悪い人と普通に話してるんスか? マジで危険っス。」 「あ、えーと、アガットさんの試験でああいう態度になったけど、ごめんなさいって謝ってくれて…、それで話したら、試験だからアガットさんとは1日だけ会わないでって言われて…。」 「ちょうどお母さんの検診もあったから。…だから、ちょっとだけ寂しかったけど…、我慢しました。」 「けんしん???」 お母さんの検診というのは…なんぞ? あれ、おかしいぞ? こんなちっぽけな僕にも、なんだかオカシイ事が分かってきたぞ。確かにそうだ、これはオカシイ。 考えてみれば、なんでエリカ博士はルーアンに居たんスかね? そもそも、ティータちゃんだってルーアンに居たのは変だ。そりゃあアガット先輩を追ってきたと言えばそれまでだけど、エリカ博士がそれを許すかね? 「あれ? ティータちゃん、僕いま混乱してるっス。もしかして、ティータちゃん達がルーアンにいるのって、その検診とかいうヤツでなの? なんの検診??」 「えーと、えーと…。お母さんは外国とかに出ている事が多くて、それで休みもあんまり取ってないから、わたしが病院で診てもらった方がいいよって…。」 「人間ドックというやつだね。」 「はい。そうです。」 クルツさんが助け舟を出してくれて、ティータちゃんが頷(うなず)く。えーとつまり…。 「人間犬?」 「本当にお馬鹿ちゃんだね、アンタは。…人間ドックセンターってやつよ。大掛かりな定期健診みたいなもので、通常検診では判明しないような病気を診断する検査。採血とか採尿、CT検査で体の隅々まで検査する、そういうもんなのよ。」 チクショー! オアネラめ…、容赦ないな! いいじゃん知らないんだからっ! つまり、新しい病院が出来たんで、せっかくだから精密検査しておこうと、エリカ博士とティータちゃんが来てたわけだ。そこでオアネラがやってきて、たまたま試験を開始した…と。ん? た、ま、た、ま? 「ねえ、ちょっとオアネラ査察官。」 「なんの用だい? チェリー。」 「もしかしてアンタ、エリカ博士に人間ドック受けるように手を回したとかしてないよね? アガット先輩がルーアンに来るように差し向けたとかしてないよね?」 「うん。した。」 …このクソ女め…。そういう事ですか。最初から計画済みでしたか。こいつ…、本当にヒドイ女だ…。 「そんでさぁ、チェリー。」 「チェリーって言うなっ! なんスか!?」 「昨日の深夜、こういう人に罵倒されなかった?」 「は?」 その瞬間、僕の目は点になった。硬直して声も出ない。 「人殺し。」 「そんなヤツがなんでここにいるの?」 「邪魔よ。消えて頂戴。」 聞いたことがあるセリフ、そして忘れようもないセリフ…。そして目の前にいる女性は…。 「そういう事っすか…、エリカ博士の姿になれるんスか…。」 そこに居たのは、どこからどう見てもエリカ博士だった。しかし本人じゃない。本物はいま、アガット先輩を追いかけ破壊活動中だ。…つまり、あの時の博士は、こいつが化けていた、と。あの幻術で騙(だま)していた、と。 「そういえば、屋上で見たティータちゃんも偽者だったんスね…。」 「アンタらを手術室に案内したり、命に別状はありません、なんて看護師の姿で言った憶えもあるけどね…。」 ……………。 「ああ〜、そうそう! 昨日の深夜、緊急手術してたのって、隣の病室でお餅を喉に詰まらせたお婆ちゃんだったそうねぇ。一命を取り留めたっていうけど、お餅って怖いのねぇ。いやだわぁ☆」 …………………………。 「チェリーも大変ねぇ。手術室の前でずっと待っててくれたんですって? さすがは遊撃士だわぁ! 全然関係ない方の容態を心配してたなんて、本当に大変ね! そのお婆ちゃんも感謝してるわよぉ。」 …………………………………………。 「おい、このクソ女。…謝罪はないんスか?」 「無いわよ。欲しいの?」 「結構っス!」 僕は窓から庭先を見下ろした。いまだ逃げ回る不幸のどん底にいるアガット先輩、それを追いかける邪悪な笑みを浮かべたエリカ博士は、実にハツラツとしておられて、人間ドックなんて受ける必要があったとは思えない健脚だ。 「あ、あのっ…! 査察官さんっ! それでアガットさんの試験はどうなっちゃったんですか?」 「言ったろ? このオアネラ=エペランガの誇りに賭けて、子猫ちゃんをイジメる気も泣かせる気もない。不合格にして泣かせるなんて、アタシの趣味じゃないわよん♪」 「えへ…良かったです。」 結局…、アガット先輩はAのまま保留となった。 どうやら、遊撃士としての責任と覚悟があるかどうかの試験だったらしい。あのクソ女いわく、別に不合格でも良かったそうだけど、子供は裏切れないなどと言いつつ、ティータちゃんを嬉しそうに抱きしめていた。 なんだよ…、子供好きなのかよ! そんな査察でいいのかよ! 自己裁量が聞いて呆れる。 そして、ティータちゃんが関わっていないジャンさんは、キッチリ減俸になった。 あんまりだ…。 ジャンさん自身は、いい経験になったよ、…と前向きだったけど、カウンターで眼鏡拭いてる姿はに寂しそうだった。実際はかなりヘコんでると思う。 …で、肝心の僕なんだけど…。 あれから倒れたらしい。骨折のやせ我慢と発熱で、思った以上に疲労していたんだとか。 やっと目を覚ましたのは、それから3日後だった───。 ────僕は、いつの間にかベッドで寝ていた。 誰もいない個室で、僕はひとり横になっていた。 周囲を見渡せば、いくつかの見舞いの品が置かれていて、瑞々しい果実や、新鮮で鮮やかな花達が花瓶にある。それは彩り少ない病室を少しだけは華やかにしていた。 僕に花なんてあまり似合わないけど、その気遣いは疲れた身体に潤いを与えてくれる。とても嬉しかった。 そして、 ベッドに備えつけられた小さなテーブルには紙束が置かれていた。…それは皆からの激励の手紙だ。 …早く良くなってくださいね。というティータちゃんの字や、 いくらでも奢(おご)ってやるから、とっとと復帰してこい、というアガット先輩の文字。 俺達だけじゃ仕事が回らない。一応は先輩なんだから、早く復帰してくれ、というロッコ君達のもの。 いい機会だから、空いた時間で勉強でもしてきな、というカルナ姉さんの文字。…厳しいなぁ…。 クルツさんからは、抜けた穴は受け持つから、ゆっくり養生してくれ、と優しいお言葉。 今度は食事に行こう。メルツ君の奢(おご)りでいいよね?と、あまりにも悲しいジャンさん。 他にも、 復帰したらグラッツ・スペシャルとメルツ・スペシャルで勝負だ!というのはグラッツさんから。 ボースにケーキ屋が出来たから、今度食べに来て〜、とアネラスさん。あの人よく太らないなぁ…。 それにまだある。貴重な体験を生かして精進してくれ、とスティングさんらしいものも、ルーアンにはグラッツを行かせるから、ちゃんと休んでおけ、とルグラン爺さんまで。 それに他の支部や、旅先のエステルちゃんやヨシュア君まで手紙をくれている…。 どれも暖かな、それぞれの心がこもったもので、僕は読むだけで感動してしまう。 うう…、もしかして僕、涙もろいのかしら? 「おや?」 ちょうどその時、僕はまだ未開封になっている手紙を見つけた。沢山ある中に埋もれて気づかなかった。 差出人は…、うげっ! オアネラだ…。 読まないで捨てようかと思ったけど、また難癖がつけられていたら嫌なので、一応は目を通す事にした。 手紙には、こう記されていた。
僕は青く、広い広い空を見上げて、手紙を置いた。 この空がどこまでも広いように、世界は広くて、どこまでも続いている…。 ぼーっと空を見ながら、ちょっとだけ笑う。 「まったく…、アンタみたいなクソ女の言う事なんか、どこまで本当か分かったもんじゃないっス。」 本当に、さんざんコケにされたけど、不思議とあんまり後を引くような怒りはなかった。どちらかというと、またくだらない事とか考えて、口止めしてるんだな、程度しか思わなかった。 それでも、査察官の仕事がうまく行くといいなぁ、くらいは考えてみる僕なのであった……。 ────1カ月後、ル=ロックル遊撃士訓練施設 「はあ、かったるいなぁ。せっかく完治したと思ったら、またここか〜。」 骨折も直った僕は、先日の査察により、ここで1カ月の訓練に取り組む事になった。 僕にとっては、この施設でいい思い出がまったくない。 我がルーアン支部の実質リーダーであるカルナ姉さんは、炎アーツと銃での遠距離攻撃でさんざんイジメてくれたし、いまは退職したツァイス支部のキリカさんには、彼女の恐るべきSブレイク・紅龍螺旋撃なる破壊技をブチ困れてイジメられた…。 さすがにもう二度と戦いたくないし、研修が終わった頃には全身の力が抜けた。いまでも鮮明に思い出す試練の数々は、帰国してからも悪夢となって僕を苦しめたものだ。 でもまあ、さすがに今回はそういう事もないでしょ。あっはははははは! それに今回の研修生は僕一人みたいだし、よっぽど運が悪くなければヒドイ人はこないでしょ。 なんて、考えていたら、ようやく指導官が到着した。 「遅くなったな、本日より1カ月、貴君の研修指導を行う事となったオアネラ=エペランガという。ウフゥ〜ン、よろしく頼むわねぇ〜ん☆ イーヒッヒッヒッヒッ!」 …………………………。 ギャアアアアアアア!!! お し ま い
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