水竜クーと虹のかけら |
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「釣った魚はリリースするですよ!」 「……そうだね。まだ小さい魚は湖に戻してあげないとね。」 水竜クーのありがたきお言葉に、なんとなく返事をするユニスは、現在とても 「むぅ、でもこれ焼いちゃったですけど、ダメですかね?」 「う〜ん…、やっぱり焼いたらダメだと思うよ。」 そりゃあそうだ。生きたまま戻すからキャッチ&リリースなのであって、焼いて河に戻してもダメに決まっている。むしろ湖にも魚にも失礼である。ぶっちゃけ、クーは食べる気まんまんなのであって、戻す気など最初からない。せっかく釣上げた獲物が大きかろうが小さかろうが、全て胃袋の中へと直行するのは決定事項なのである。 …っていうか、すでに焼いてあるので聞くまでもない。 クーにしてみれば、”食べていいよね?”のいいわけなのである。 「このバカモノめがっ! よいかクーよ! 水竜ともあろう者が弱者ともいうべき小魚にまで手を出すとは、いったい何事だ! 「…あの、ランバルトさん。そこまでキツい言い方をしなくとも…。」 などと怒りつつも、自身も焼き魚を しかし 「ランちゃんもこの小魚を食うですよ〜。こいつ卵いっぱい抱えててウマイですよ! 子持ち小魚ですよ!」 「む、魚が一生懸命に産んだ卵までもが犠牲になったというのかっ! 水竜ともあろう者が、実に、実に 「つべこべ言わずに食うですよ!」 「ふがっ───。」 無理矢理に口へと突っ込まれる焼いた子持ち魚。あろうことか、ランバルトは不覚にも もぐもぐもぐ……。 「ぬ! …なるほど、これはウマイな。クーよ、いまの言葉は 「さすがはランちゃんですよ〜。」 「……いいんですか…それで……。」 ランバルトの悪いところは、クーに対する教育的指導にポリシーがないところだ。 クーに対して、とにかく甘い。 そんなやり取りが、さっぱり状況不明なユニスであったが、別にキャッチ&リリース …しかし相変わらず ユニスから見ると、彼女達は友達同士のように見えるのだけど、基本的にはランバルトがクーに礼儀のようなものを教える場面をよく見かける。クー本人がそれを承知しているのかどうかはさておき、仲の良い友達のようでありつつ、親子のような関係だと思っている。 なぜ二人は一緒に居るのだろう? いつから一緒なのだろう? …混み入った事情があるのかもしれないので、 さて、いつものような一時を過ごしているクー達より、時間は少し それは3時間前の事。 ここより右前方に見えるイスガルド城での話だ………。 「───その” 女王イメルザはいつも通り、 あの処刑の日以来、ユニスが勉強を それに、王城の 外部よりの進入は、例え猫の子一匹通り抜ける事も いかにユニスが一人で敷地内を出歩いたとて、外敵がない以上は心配ない。 イメルザはそう考えていた。 しかしその予測は大きく裏切られた。 どこからともなく現れた”蒼髪の娘”が、 どのような手合いの者かは分らないが、あの 国の ───そして今、王座の間に集まる一同には、 「…いえ、ただ殺しては正体が 「(やっべぇ……、この女、マジこええよ…。早く帰りてぇなぁ…。)」 女王の怒りを買う。それは最も恐ろしい事だ。こうなってしまっては、その蒼髪の娘とやらは無事ではいられないだろう。いいや、この世で最も恐ろしい死を迎える事だろう。 バスタークは知っているのだ。この雷帝の本性というものを。 息子が関わってしまうと、人を殺す事など息をするより まったく、この女ほど恐ろしい …それは女王の両脇に どんな 「ふふ…、ではこうしましょう。…バスターク、盗賊ギルドを使ってその小娘を 「あ、ああ…。了解した。」 わざわざ盗賊ギルドを使うという事は、女王親衛隊や軍の人間に知られたくないという事だろう。つまり公開処刑ではなく、蒼髪の娘とやらをくびり殺し、そのまま闇に イメルザはそれだけ本気だ、という事だ。死を与えて当然だと思っている。 ……かくして、 蒼髪の娘、つまり水竜クーは、女王イメルザの そして、時間は今に戻る。 湖のある敷地近くには、十数名からなる団体が近づいていた。 そこには、いつものように白髪を隠し変装したバスタークと、盗賊ギルド団長バフキー、そして長年ギルドに身を置く熟練の者を10名も 「おい、バスよ。…もう一度確認するが、その小娘ってのはただの小娘なんだな?」 「…ああ、俺もまだ見ちゃいねえけどな。そうらしいぜ。」 バフキーはさきほど聞いたような事を再度口にした。バスタークは彼のそんな小物ぶりに少々 そんな事よりも、バスタークはユニスの方が心配であった。彼は前回の公開処刑の いかに楽天的な態度を取るバスタークではあっても、今回ばかりは胃が 自分を狙う、どこぞの暗殺者を殺すのはどうでもいい。それはただの日常における刺激のようなものだ。相手が勝手に仕掛けてくるのだから、殺されたって文句はいえまい。 しかし、関係ない人間まで殺したいとは思わない。そこまで 「見えてきました。」 先導の兵士が身を屈める。一団の進む先に湖があるからだ。ここをさらに数百メールも進めば、ユニス達のいる場所に 「おい、スコープを出せ。」 バスキーは手下にそう伝えると、まるで最初から用意していたかのようにそれが差し出された。これは遠くを見る事ができる携帯式望遠鏡である。小さなコップ程の大きさだというのに、2キロメール先まで見る事ができるという品だ。盗賊道具の一つである。 そして今、バフキーの視線の先には、そうとは知らずに食事しているクーの姿が 「………あのガキか。確かにあんな蒼い髪色は見た事ねえが……それにしたって、まだ王子と同じような歳じゃねえか。可哀想になぁ…。」 バフキーはその様子を眺め、そんな事をしみじみと言う。悪党のくせに似合わない事を言うヤツだ、とバスタークは巨漢の男へと視線を移した。 そして …きっと、彼は先月に生まれた赤子の……娘の将来を想像して泣いているのだろう。あの娘を見て、自分の娘がそうなったらと想像してしまったのだ。 敵対する相手には容赦しないくせに、身内や仲間の事となると涙 「どうでもいいけどよ、俺にも貸してくんねぇ?」 そう、確かにそれはどうでもいい話だ。バスタークは勝手に涙ぐんでいるバフキーからそれをもぎ取ると、レンズを覗いてみた。その命短い蒼髪の娘とやらを連行前に確認しておく必要がある。 何せ、彼にはその娘の姿以上のものが”視える”からだ。どちらかといえば、そっちがメインとも言えるか。 「さぁて、その可哀想な娘さんとやらの命運はあと何時間で尽きるのかねぇ。いや、何十分後か…。」 間違い無くイメルザに殺されると運命づけられたその娘を見るため、バスタークはその”魔眼”でスコープを覗く。その特殊な眼光は、相手の死の運命を視る事ができる。 ……だが、彼はそこで不思議なモノを見た。 その視線の先には、確かに見た事もない蒼く長い髪をした娘がいた。普通の人間では有り得ない光を帯びるかのような美しい蒼の髪。だが、それならば自分も同じようなもの。珍しい髪色には変わりないが、彼が不思議を感じたのはそれではない。 その瞳が 「おいおい…、なんだよあのお嬢ちゃんはよ。こんな事あるもんなのか?」 彼の目に映った蒼い髪の娘、その寿命は……なんと『不明』であった。彼の目にすらもボヤけて映り、死期がまったく見えないのだ。当然その死因さえもわからない。こんな事は始めてだった。 しかし、娘の隣にいるユニスはちゃんと4年後の死が見える。相変わらず死因は不明だが、見えてはいるのでバスタークの魔眼が狂っているというわけではないようだ。 そしてなによりも、その娘より感じるのは強大な魔力である。娘自身が持つ魔力も信じられない バスタークには、直感的にあれが人ではない事がわかった。魔眼もそう告げている。あれは人では有り得ない。彼の魔眼だからこそ理解し得る現実がその先に在ったのだ。 ───言葉を失う。 あれは間違いなく人ではない何かだ。 だが、人ではない人型の何かなど、それ以上をどうやって説明すればいいというのか? 「まったく…どうなってやがんだよ…。」 予想もしなかった状況に、さしものバスタークでさえ 「…お頭、準備は整ってますぜ。いつでも行けまさぁ。」 後ろに 「お、おう…。仕方ねえな。これも仕事だ。やるしかねえな。」 少々の気後れをしたものの、バフキーもすでに仕事の顔となっている。さすがに裏社会において盗賊ギルドに いかにあの娘が特別であろうとも、盗賊の捕獲術に対抗できるとは思えない。数十秒後には完全に身動き取れないよう、捕獲が完了している事だろう。 「さて、野郎ども……行く────」 バフキーがそう言いかけたその時、それは現れた。 彼らの前に、史上最悪の相手が登場したのである。 「よう、人間ども。キサマらここで何をしようとしているのだ? 私に教えてくれまいか。」 突然、何もない中空より声がし、彼らの目の前にペンギンのヌイグルミが出現した! そして、その 「な、なんだコイツ───っ! うわあああああ!!」 熟練盗賊の一人が声を上げた なんと、男の右半身が消失していたのである! 「わああああ! なんだ! どうしたんだぁぁ!!」 「ひぃぃぃぃぃ!!」 周囲の盗賊達が一斉に奇声を上げて恐怖する! ただの奇襲ならば、1人が死んだところで 無残にも縦から右側が完全に消えうせた盗賊…。その断面はどんな刃物でも有り得ない程に …だが、驚くべき部分はそこではない。男は生きているのだ! バスタークの魔眼には死など映されていなかった! 間違いなく彼の半身は確実に消失しているというのに、彼には今も男が死んでいないという事がわかるのだ! 失神して泡を吹いてはいるものの、体そのものは健康なまま。呼吸をし、血の一滴すら流れていない。 なぜ半身が消失してもなお生きているのか? まったくもってワケがわからない! 「この程度で 目の前に 死と 絶対的な死の あの姿に この 逃げろ、今すぐ逃げろ!…と。 こいつには絶対に手を出してはならない!……と。 だが致命的な事に、誰一人として例外なく体が 「たかが人間ごときが、私のクーに殺意を向けた事、どう弁解するつもりだ?」 短い腕を組んで バスタークも、バフキーさえもが例外無く、同じように地面へと転がり これは魔法でも奇術ではない。幻で見えなくなったのではなく、本当に消えたのだ。こんな事が有り得るというのだろうか? いや、現実として自身が消えているのだから有り得るという事なのだろう。 これでは、いかに熟練の盗賊が だが、こんな事は当たり前の結果である。 彼らはまさか想像さえしてはいないだろう。目の前のヌイグルミが、伝説上において世界崩壊をもたらした魔神の一人、ランバルト本人であろうなどとは。 「ま、まあ落ちついてくれよペンギンさんよ。」 誰もが発狂しそうな状況下において、唯一、バスタークだけがその状況に対処しようとしていた。さすがの彼もかなり混乱してはいたが、相手がまだ殺す気がないという事だけは分っていた。殺すつもりならば、さっさと殺しているはずだからだ。 いつでも殺せる。力の差を見せつけているのが現状だと判断する。きっと……だが、ここであのペンギンの問う”答え”を間違えなければ、死ぬことなく元に戻れるはずだ。 バスタークはこれほどの危機的状況においても、心の 「ここまでされちゃ、普通はビクついて話せないもんなんだぜ。」 なんとか平静を装いつつも会話をしようと軽口をきく。…だが、問題はここでペンギン姿がこちらに興味を持ってくれなければならない。ヘタに そう 「……ふん。キサマその白髪、それにその魔眼は…、魔神『 I 』の……イスファンテの 「…………………?」 「よかろう。許可してやるからキサマが説明しろ。」 バスタークにはその言葉の意味するモノがなんであるのかがわからない。だが、幸運にもマトモな話ができるようだ。正直ありがたい。 さあ、ここからが交渉だ。相手が話を聞いてくれるとはいえ、答えを間違えてはいけない。たった一つの 「俺達はよ、この先にいる蒼髪のお嬢ちゃんを捕らえに来たんだよ。」 ここは正直に話しておく。バスタークは回答の順序を間違えないようにヌイグルミへと説明する。 「ほう……。それはどういう理由でだ? ではなぜ、そこに殺気が混じっていたというのだ?」 「その殺気とやらが誰のモノかは知らねーよ。まあ、俺個人でない事は確かだ。その辺に転がってる盗賊どもの誰かだろ? どちらにしろ、命令でお嬢ちゃんを捕らえに来たのは事実だわな。…ここはラファイナ王家の所有地なんだよ。あんたらの不法侵入ってやつだ。」 これも真実。女王の 「不法侵入とは身勝手な回答だな。……では、こちらが質問してやる。その命令を出した ランバルトが指した方向には、この湖より見えるイスガルド城。そしてその上方には女王イメルザが居る。 「いっ! ……さ、さすがペンギンさん。アンタすげえな。ビンゴだ。」 「当然だ。姉や妹達からすれば劣るが、私とてこの程度ならば さすがに、ここまで簡単に居場所を特定されるとは思わなかったが、まあそれはどうでもいい。ここで 「じゃあ話が早いこった。見れば分かると思うが、俺達は バスタークからすれば、いまは相手の指示で話を進めているが、実際にはこちらが教えている状況だ。相手がどのような強さだろうと、情報を 見ればこのペンギンかなり 「もちろんアンタみたいなトンデモナイ強さでも持っりゃ逆らえるんだろうけどなー。そうもいかんのよ。なにせ女王イメルザはこのラファイナの頂点だ。俺らはコキ使われるしか選択肢がねえ。そうなりゃ毎日大変なわけさ。」 「…………ふむ。」 バスタークの 「ぺちゃくちゃと 「…………は…?」 バスタークが思いもよらぬその言葉に気を取られたその 「───!! ……っ!……」 足と同様、顔の下半分が一瞬で消えたのである! 確かに痛みはないのだが、実に奇妙な感覚だ。手で触れようとしても本当にその部分がない! それに口そのものが消失したために 「私は説明しろとは言ったが、お前の考えを聞くつもりなどない。ヤツの そもそもバスタークの 彼女には目の前のバスタークという男など、ただ虫でしかない。それが意見を述べるなど そしてランバルトにとって事情は知れた。この小僧には用もない。 彼女にとっては人間など、あっさり細切れにしても …だが、ランバルトはクーと共に生きると決めた。だから今だけは人間を殺すつもりはなかった。 彼女自身は人間が嫌いでもクーはそうではない。だから無闇に人を殺すことは、クーと同等の目線でなくなってしまうと考えているのだ。…まあ、それでも クーと共に生きてきた事で、多少は 「小僧。…お前のその魔眼、大した力もないようだが、そこから大人しく見ておくのだな。今から私の力を見せてやる。お前とお前の上司とやらを黙らせてやる。」 「───空間断絶。我が力ここに開く。」 ランバルトはその言葉と共に、短い腕を空へと そして、 空 間 を その瞬間、イスガルド城の王座の間で会議を開いていた女王イメルザとその両脇に なんと、眼前に林と平原が広がり、バスターク、それにバフキー達が転がっていたのだ! ここは2階の高さにあるはずの場所だというのに、目の前には敷地内の森林がそのまま 「なっ!────…。」 あまりの そしてその中心に、背 の 高 い 女 が 立 っ て い た 。 右手にはペンギンのヌイグルミを 女は、 「…………キサマが女王というやつだな。」 「な、何者……?! こ、ここがラファイナの支配者たる女王イメルザの前と知っての イメルザにそう言わせたのは、女王としての これは間違い無く想像の 人の 「私は魔神ランバルト。 「……ま、魔神……ですっ…て…?」 バスタークはすでに考える事もやめていた。 あまりに そして彼は初めて、心の底から死の恐怖以上を感じた。彼の魔眼がありえないモノを視せていたのだ。 彼の魔眼が どんな生物にも必ずあるはずの生命というものに よって さきほどの蒼髪の娘は不明であったのは何かしらの理由があるのだろう。考えられる 自分が今、相手にしているのはそういう化物。恐ろしくないわけがない! さっきまで、あんなモノと対等に話そうとしていたのかと思うと、心臓が凍りつくほどの ……だが、そんな 司祭として生きる中で様々な人間を見た。そしてなにより、多くの女性を見てきた。 そんな彼ではあったが、こんな女は見た事がなかった───。 「キサマがクーを、蒼色の髪の娘を たったそれだけの言葉だというのに、怒りの波動が力となって室内を駆け 常に冷静さを 「な…、何者か……は知りませんが……、我が王城の敷地内に無断進入をする…など許されるモノ…ではありません…。それに…。」 気おされているイメルザであったが、そこにユニスにも危機が 「それに! 蒼髪の娘とやらが関わっているのは私の息子ユニスです! ならばその身を案じて相応の行動に出るのは当然の事! お前が何者だろうが、こちらに非などない!」 周囲の…、まだ気を失っていない者は、その女王の言葉にまた驚く。そんな口を聞いたら間違いなく殺される!…誰もがそう思っているからだ。だが、その反論を聞いて、ランバルトは面白そうに口の端を釣上げた。 「……ほう、この力に 「バ、 「ふん、いいだろう。教えてやる。……お前の息子と一緒にいる、あの蒼髪の娘は水竜だ。名前はクー。この国を救った水竜バオスクーレの娘。 「なん……ですって……?」 「真意ならばそこの白髪の男に聞けばいい。コイツの魔眼は正確だ。それにそこの……白髪の中年も同じで 「…ど、どういう事ですか? バスターク!! スラクロード!」 そして、ようやく意識を保っているバスタークさえも、呆けた顔でその女を見ていた…。 それに当然ながら、彼は口が消失していて話す事ができない。 それを見たランバルトは、次の一瞬で彼の口を元に戻した。ちゃんと話して女王を 「あ……、あ、ああ………。はぁ…元に戻ってやがる。おっと、また無駄話してるとヤベえな。…さっき俺らが見た蒼髪のお嬢ちゃんだろ? 水竜かはどうかわかんねぇが間違いなく人間じゃあねぇと思ったぜ。……さすがに今回はマジだ。」 ランバルトは腕を組み、見下し、 「私は50年前の戦いで、水竜に借りを作ってな。あの子を見守る事にしたのだ。それ 「……その……娘が、本物だという証拠は…あるのですか?」 大量の汗を噴出させながらも、魔神を名乗る女に食い下がろうとするイメルザに、気絶さえできなかった小心者のバフキーは、もうやめてくれ、とばかりに涙を流していた。彼自身、こんなに恐ろしいのなら、早く発狂して欲しいと願ってやまない。 「 ランバルトはいつのまにかペンギン姿に戻ると、軽く腕を振り上げた。すると、次の 「ハイホ〜 ハイホ〜 しご〜とが好き〜♪ らららーらーらーら〜 はいほーはいほ〜♪」 「ねえ、クー。歌もいいけど手を動かそうよ。食事の後片付け終らないからさ。」 「クーは水竜なので、そいつはちょっと難しいのですよ。」 「それ、ちっとも答えてないよ。…まったく、仕方な───……えっ!?」 先に気付いたのはユニスだった。後ろを振り返り、 「は、母上……? それにミザルク老に……、司祭も…、ランバルトさんも!?」 彼らの後ろ、その空間が その中心に立っているのが、ヌイグルミのランバルトである。 「……どうして……。」 まったく状況が飲み込めないユニスであったが、この 「…母上。お久しぶりです…。」 「ユニス……。」 あの 「ハイホー♪ ハイホー♪ こぶ〜茶が好き〜 らららーら……ずず…。く〜、やっぱり食後のお茶は最高ですよー。」 「………い、いや…、あのね、クー。ちょっと後ろ見て、後ろ。」 まったくどこまで 「なんですよユニス〜。クーはいま などと、とんでもないマイペースを見せつけたクーではあるが、ようやく気がつき、びっくりした。 「おおおおおお〜、なんですよ! これはスバラシイですよ! クーはこんなに沢山の人間に会ったの始めてですよ! 世界は広いですよー。」 「い、いや、そうなんだろうけどね、 「お客様が来たらモケナスのが礼儀ですよ! えーとえーと、こぶ茶入れるですよ!」 「クー、それを言うなら”もてなす”…じゃない?」 その光景に、別の意味で ……その中で一人、バスタークだけは”コイツは間違い無く大物だ”思っていた。 いつの間にか、自分を 「ええい、クーよ! 今はお茶はよい!」 殺気の 「む、なんですよランちゃん。せっかくのお客様ですよ。」 「まずは くりくりとした 「おお〜! 母ちゃんですか!? ユニスは母ちゃんいるですか!? わあああ〜、いいなぁ! 母ちゃんいいなぁ……。」 短い 「は、ハジメマシテですよ! クーは生まれて本日まで147年ほど水竜やってるですよ。まだまだ 「……………は、はあ……。」 さすがのイメルザも、どう対応していいのかわからず、 これは信じるしかなさそうだ。 なぜなら、全ての状況が作り物で ここまで そんな中、ランバルトはいつもの調子でクーへと話しかけた。 「これ、クーよ。私はまだ、こいつらと話があるのでな。ユニスに迷惑をかけぬように、とっとと片付けておくのだぞ。」 「えー! クーも母ちゃんと話したいですよー!」 「バカモノ! こぶ茶と仕事が好きだとハイホー歌いながら、こぶ茶だけ 「ぎゃーーー! なんてこったですよ!」 そこで、またも空間がぐにゃりと曲がり、クーとユニスがいた場所は消えた。そして盗賊達、バスタークのいた平原も消えている。もう必要がないとランバルトが消したのだろう。 ……そして残されたのはイメルザ達だけとなった。 「さて、ババア。…お前も状況が飲み込めたはずだ。キサマらには水竜の娘の登場は願ってもないハズ。 「…………。」 「それに、お前の息子ユニスとクーは友人となっている。これも好都合ではないのか?」 ランバルトが言う事はもっともであった。これが真実なら、 「ならば話は簡単だ。クーと、それにユニスにも関わるな。それが守られないようなら、私もこの国の…いいや、世界の安全を保障しない。いいな?」 ランバルトは 「…………わかりました。」 意外な事に、イメルザは少しも反論する事なく、それを 「いいでしょう。我々はその娘を水竜と イメルザはなんとか顔を上げ、視線にはどんな意思も込めずに、ランバルトへと伝えた。 「ふん。やっと 「…貴方に我が国土を 急に 「頭の悪いキサマら人間に その 「───私の大切なモノに傷一つつけてみろ、大陸ごと沈めてやる! 選択肢があると思うな、人間どもが!」 その言葉を残し、ランバルトは消えた。 たった数分程度ではあるが、気の遠くなるような長い時間であるかのような交渉…。 いいや、一方的な命令。 それが今、終わった…。 ─── 取り残されたのは、女王イメルザと、女王親衛隊の隊長ミザルク老、そして気を失っているスラクロード卿。それにランバルトの怒気で破壊された室内であった。高価な壷などの調度品は、もはや原型を …長年、イメルザの側でその成長を見守ってきたミザルク老ではあったが、こんな事は当然初めてだったし、うろたえもした。だが、それ以上にイメルザの態度が気になっていた。 そして今、そのイメルザは 「イメルザ様…、大丈夫でございますか? イメルザ様?!」 「…………。」 ミザルクの知っているイメルザは気性が …そして今も、あれほど強大な魔神を相手に真正面から だが今、そこにいるのは、彼の知るイメルザではなかった。 これまで以上の狂気を 「ク……クククククク……アハハハハハハ………っ!」 「イ、イメルザ様、どうされましたか!?」 突然の 「魔神? 水竜? ………ゲテモノがごときが 「…イメルザ様…?」 「それどころか、私の……私のユニスを渡せだと? フフフフフフ……。これを笑わずにいられようかっ!」 イメルザは狂ってなどいない。 予想もつかない形での水竜登場は だが、これほど 得体の知れない圧倒的な力で いいや、違う! 息子を 「ミザルク、お前はこれより全精力を 「い、いや、しかしそれでは 「奴隷? あのような 「ひっ! い、いえ……そういうわけでは……。」 その時、ミザルクの目に 「それにスラクロード。」 イメルザはもう一人の側近、魔眼を持つバスタークの父親、スラクロードへと目を向けた。しかし彼はあまりに強大な魔力を当てられ、いまだ気を失ったままである。 「フフ……、まだ気を失っているのですか? 仕方ありませんね。」 その言葉と共に、イメルザの口元が 「─── 声にしたのはイメルザが 「ぐぎゃああああああああ!!」 悲鳴と共に、無理矢理に意識を取り戻させられたスラクロードが、全身の激痛に 「役立たずめがっ! 死んでいないなら早く水竜神殿へ向かいなさい。バスタークをユニス達の 「うが……あああ……。うう……。」 なんとか、 「見ていなさい。あの魔神…、必ずや水竜の小娘とまとめて始末してくれる……。フフフフフフ………。」 「ユニス! 母ちゃんいたですか。いいなーいいなー。」 「あ〜、いや……、うん。 イメルザよりの だが、彼はもうただの子供ではない。先ほどの対面とランバルトの態度で 「(きっと母上は、クーになんらかの不信感を抱いている…。)」 自分が現在置かれた立場から ユニスは自分の母が、いかに冷静で、そして 「ユニス〜! クーも母ちゃん欲しい! 母ちゃん半分ちょうだいですよー!」 「い、いや半分っていうのはどうかと思うけど……。」 しかしクーはなぜこんなにも母親を欲しがるのだろう? ユニスにはそれがよくわからない。あの雷の女王と呼ばれる母上が、そんなにもクーを 「ふむ、今帰ったぞ。クーよ。」 そんな事を考えていたユニス達の下へ、ランバルトが帰ってきた。なんとなく 「あー! オカエリですよランちゃん! 聞くですよ! ユニスはユニスの母ちゃん半分くれって言っても 「バカモノ! よく考えてもみろ。半分にしたら母ちゃんが、母、ちゃん、の二つに分かれて”母ちゃん”ではなくなるではないか! お前はそのように半分にして、どう呼ぶというのだ?」 「がーーーーん! そうですよ! クーはなんという間違いを……。」 クーは頭を抱えて非常に 「それよりもクーよ、今夜の食事を今のうちに確保しておこう。ちょっと大物を一匹捕まえて来てくれんか? せっかくだから湖ではなく、久しぶりに海の 「おお! それなら そう言うと、クーは元気に …市街と王城敷地を 「さて、ユニス。クーが帰ってくる間に、お前に確認しておきたい事がある。」 「……なんでしょう?」 クーが 「お前は、味方か?」 ランバルトの言葉の意味をユニスは理解していた。母が だからユニスは、答える。 …いや、言葉など必要ない。言葉にはならずとも、明確な意思を持って 「ならば、ここより先を聞き逃すな。」 「はい。」 ランバルトはそれを見ると、その場にしゃがみこんだ。それもかなりの しかし彼女はそれでも休もうとせず、話を始める……。 「見ての通り、私はかなり力を使ってしまった。お前の母親は 「…………。」 この先、ランバルトが何を言うのかはわからない。しかし、ここから先はクーがその場に居ては話せない事なのだと理解できた。 「ユニス、先ほどの場でお前は気づいたか? 「ええ。」 「クーがそれを感じ取れていなかった事にもか?」 「え……?」 ───そう、クーはあの場において、 それも当然である。クーは人間と 「クーはハーフとはいえ竜だ。もし、人間と戦ったとしても負ける事はないだろう。相手が武器を持っていたとしてもな。…しかし、人間の世界は戦闘だけでは 「……そうで これまで、ユニスはクーと接して、彼女が頭のいい子だという事を知っている。教えた事はすぐに学ぶし 「私は、クーを守らねばならない。そしてそれは一人では無理なのだ。」 クーが水竜の娘であるのは事実。そして、人であるのも事実だ。そうである以上、クー自らが 「ランバルトさん、僕は───。」 「たーだーいーま〜ですよ。なかなか大物が 「あ、おかえりクー。……ナニソ クーは体長が人間の 「コイツはね〜、メガ 「そのまんまだね…。」 「泳ぐ時にバタフライで泳ぐですよ。」 「やけにシュールだね…。」 見た目がかなりグロテスクで、正直言うとキモチワルイ。腕の部分だけ焼いて食べるのは 「それがねー、けっこうウマイですよ。……で、ランちゃんどこですか?」 「あ、ああ。ランバルトさんなら、用事があるから2週間くらい出かけてくるとか…。」 「なんですとー!」 ランバルトは使える魔力に限界がある。それは封印が そしてユニスを信じた。 クーにとって本当に友人だと信じてくれた。……だから、協力を 1人ではどうしても守り切れないと 人間など 「うきー! 半分の約束忘れたですかー! けしからんですよ! けしからんですよ!」 「そんなに怒らないでよ、クー。その代わり、ランバルトさんが帰ってきたら街を案内するからさ。」 「えーーーー!! マジですか? マジマジですか?!」 何も知らないままのクーはいつもの通りだ。明るくて楽しくて、 しかし、ランバルトは真実を 彼女はもう二度と、クーが苦しんだり、泣いていたりする これを知ったらクーは しかし、人の世界に入った だから、少しづつ クーが人として生きていく事が出来ると感じるまで守りたい。それだけなのだ。 人間の感情、それも しかし、クーの笑顔は 彼女にとって、もうクーは姉や妹と同じほど、大切な存在なのだから……。 そしてユニスも一つの決意を持っていた。 この無邪気に 「ランバルトさん。僕は───ほんとに 「…ですけど、そんな僕にも友人が出来ました。クーという面白い子です。その子と一緒だと、僕はいま生きているんだと実感できるんです。それが楽しいって事なんじゃないかと思うんです。」 「僕は自分自身のためにクーと一緒にいたいのだと思います。だけど、それでクーも共に楽しいと思ってくれるのなら、僕はどんな 「僕がクーを守ります。僕はもう、何も ユニスは そして、それを それはユニスが、現実と戦うために、勇気をもらう為に、大切な人から受け ローテン師、見ていてください。 そして、どうかクーやランバルトさんに幸運を……。
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