水竜クーと虹のかけら |
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さて、商店街の すると、クーとランバルトがカウンター席で食事しながら力尽きている。飯を食う事をすっかり忘れて空き腹に酒を飲んだものだから、酔いが回るのが早かったらしい。天下無敵の水竜様でもアルコールには弱いのである。 ムキになってドラゴンブレスを発射し続けたため、酒が回って …そして今、ユニスは 「……GUGAAAAー、GUGAAAA〜…。」 「こーか〜…、こーか〜…。」 背中から聞こえるクーの寝息。肩にひっかけた袋から聞こえるイビキ。とてもじゃないが、天下の水竜様と、世界崩壊の魔神とは思えない二人である。ユニスは背中で吐かれなかった事だけを ちなみにウルサイ方がクーの寝息である。彼女は寝ている時だけ竜本来の声帯が戻るのだ。その音量は並ではない。 「本当に仲がいいんだから、この二人は…。」 ユニスはこの二人と出会った頃から仲の良さを目にしている。常にうるさいこの二人を見ていると、いやがおうにも平和を感じる。本当に困った事件ばかりだが、この飽きることのない毎日をユニスは好いている。 しかし、今の彼には それは1週間後に …50余年の昔、クーの父である水竜バオスクーレが人間に預けた『太陽の宝珠』を、水竜クーが受け取る式典。それは約束されていた区切りの日だ。人々にとっては、さらなる だが、残念な事に、ラファイナがさらなる 果たして、クーが力を得る事が、本当に国の繁栄に しかし、ユニスはそこでその考えを打ち払った。友人として喜ぶべき成人式を、そのように考えてはいけない。クーが力を持つ事で平和が崩れないよう支えるのが自分の役目である。 「申し訳ありません。母上…。」 きっと、女王である母はこの式典が失敗してはならないものだと何年も前から動いていたはず。本来なら、自分もそれに手を貸さなければならない立場であった。国のために尽力する立場に自分は生まれた。だけど、自分はクー達と共にいる事を選んでしまった。己に課せられた責務から逃げ出してしまった。 それが クー達のために どちらかを そんな答えの出ない回答を求め、ユニスは心の奥底で悩み続けている…。 二人を背負って歩いていたユニスは、ようやく港へと到着した。ここは王都唯一のファカロ港である。王都イスガルド、そして城下町ガルドは一応は海に面してはいるものの、浅瀬が多く、岩の隆起が険しいため港には適していない。貿易船や大型漁船では入港できず、小船を止めるのがせいぜいだ。 女王イメルザはこれを埋め立てる事なく、景観重視を 「うっぷ…、あ、海に来たですか〜。」 「ああ、クー。もう目が覚めたの?」 クーは背中から降りて地面へと足をつけた。しかしながら、あの騒ぎから30分ほどだというのに 「あれ、クー…、どこいくの?」 すると、彼女はトボトボと海の方へと歩き出した。ユニスが声を掛けると、こういう返事が返ってくる。 「ちょっと海に栄養を与えてくるですよ。」 …どうやら、気持ち悪いので吐きに行ったらしい。ランバルトはまだ寝ているが、起きていたら絶対にこう言うはずだ。 さすがは水竜! 自らの 戻ってくるまで時間がかかるかも、と思いつつ、ユニスは彼女の帰りを待っている事にした。 何気なく 海風は未だ冷たいものの、どこか優しい。 そしてユニスには、この優しい風が今の幸せを感じさせてくれるかのように思えて心地よい。 …3年前まで、クー達と出会うまではこんな生活を送ることになるとは夢にも思わなかった。今では当たり前となっているクー達との毎日はあまりにも楽しい。ハチャメチャな行動に悩まされる時もあるし、暗殺者に襲われる事も多い。だけど、この今の生き方が自然であり、幸せなのかと思うと、自分がいかに恵まれているのかを噛み締める事もできた。 ずっと続かないだろう事は理解していた。自分がラファイナ王国の後継者である以上、永遠には続かない。しかし、それを出来るだけ長く平穏を過ごすためには、どんな努力も惜しまない。かけがえの無い友人でもある、クーやランバルトのためにも、ユニスは身を削る決意を持っている。…なぜなら、この幸せは彼女達から貰っているものだからだ。 だから、自身が王族だという立場に悩みながらも、それでもユニスには どんな事があろうとも、クー達を苦しめるような事にはさせない。あの笑顔を …そんな時、ユニスは 「あまりいい趣味ではありませんね。バスターク司祭。」 「ったく…、お前はとんでもねえ奴だな、おい。」 突然、何も無い空間からその男は現れた。白い神官服を身に付け、長く白く もっとも、現在の彼の仕事はお目付け役という名の「水竜クーとユニスの監視と報告」が主である。女王イメルザの 「…透明化の魔法は、魔力感知ですぐ見分けがつきますからね。」 「バカ言え、探知魔法も使わず正確に居場所を割り出すなんざ、お前くらいしかいないだろうが。」 …とはいえ、監視とボディガードの役目があるというのに、彼はいまの今まで バスタークは 「でよぉ、さっきの6人だがな。ありゃカルバレッタ王国の刺客だな。お前らいろんな国からモテモテだなぁ。」 やはり顔を見せなかっただけで調べてはいたようだ。あの暗殺者がどこの手の者かを確認していたらしい。彼はこの王都の裏社会を …だが、ボディガード役をする気はまったくないようだ。使える男ではあっても、命を張るつもりは毛頭ないらしい。そういう真面目なのか不真面目なのかわからない男でもあるのだ。バスタークは。 「それはそうと司祭、もうすぐ返還の儀ですけど、司祭はどういう立場で出席なさるんです?」 「あん、俺? 俺は名目上お前さんの家庭教師だし。当然だけどお前とクーの嬢ちゃんの周りで見学させてもらうぜ?」 タバコを吹かしながらそう答えるバスターク。彼はそのまま空に向かって輪を作るが、ユニスはそのまま言葉を続けた。 「…司祭は何か 「なにをだ?」 「 「諸々か。」 バスタークはユニスの質問を聞き、 それに簡単に撃退できてはいるが、ここのところ、週に一度はどこからか暗殺者が現れている。それを考えれば、どこかで、大掛かりな だから、ユニスはバスタークへと 「お前、本当に嫌な奴になったなぁ。3年前はただの 「司祭が式典に同席するなんて答えたからですよ。司祭はそういう面倒なの嫌いでしょ? あっさり同席するなんていうから。」 「ああ、そりゃあ失言だわ。」 …そう、いつものバスタークなら、そういう面倒なモノには出席しない。例えそれが歴史的な式典だろうと、彼は面倒が嫌いなのだ。格式ばった式典でじっとしているなら酒場で酒を飲んでいる方がいい。そう考える男なのである。 ただ、素直な男でもあり、言葉の端はしに本音が出たりもする。ユニスはそういう部分をツツいてみたわけだ。 「んー、まあ式典自体に手を出そうって 「なるほど、僕はてっきりマリアさんが公式の場でお 「…おい、馬鹿言うなよ。あんな小娘に俺がどうこう思うわけないだろ? 俺は大人の女が 「いえ、僕は司祭がマリアさんの師という立場だから見届ける義務があるのかな、と 「お前…、本当に嫌な奴になったな。」 「僕はお似合いだと思いますけどね。」 「阿呆か。お前ちょっと黙ってろよ。殴んぞオラ!」 苦笑するユニスを横に、不満顔のバスタークだが、もうその話はおしまいだと言わんばかりにタバコを噴かした。もちろんユニスも本題を忘れたりはしない。彼の握っている情報はここからが重要だと心得ている。 「まあ、少なくともこの南ラファイナでの問題はないハズだ。式典中は北のクロービス家や他国からの 「ただなぁ、…もしかすれば北ラファイナで奴隷達の暴動があるかもしれねえ。クロービス家の留守を狙っての行動があるんじゃないかと警戒はされてる。」 「ただの抗議行動でしょうか?」 「俺に聞くなよ。これ以上は知らねーよ。…なんにしろ、今は色々と噂が飛びまわってて、どれにも確信はない。俺の持ってるのも盗賊ギルドで持っているのも、お前自身で 「……そうですか。」 式典自体には問題が無い。それは見方として正しいはずなのだが、どうもユニスには安心きしれない胸騒ぎがしてならない。身元が割れる可能性を無視してまで暗殺者を送り込んでくる勢力がいる以上、式典を 結局は、一週間後に 何かが待ち受けていると考えた方が自然。ユニスはそう判断せずずにはいられなかった。
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