水竜クーと虹のかけら |
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夏特有の熱気に包まれた日も高い午後……。 「おお〜、ここがクーのおうちになるですか?」 セミ達が大音響で聖歌を そして、子供達の目の前には小さな小さな家がある。 …家、というと これは冬に ここは子供達の住む村より、ずいぶん 「いまは夏だから使ってないの。だから、とーぶんは大丈夫。明りも家からロウソクを持ってくるから、みんなで遊べるよ。」 クーの友達で、3人の中の年長である女の子、ルイサが楽しそうに答える。クーはあまりの そんなクーへ、もう一人のお友達である男の子、ルイサよりも一つ年下のロイが不思議そうな顔で 「ねぇ、クーちゃん。クーちゃんは、おうちに帰らないでここにいるの?」 「いるですよ〜。」 「わぁい! クーおねえちゃんがずっといる〜!」 その 「え〜? クーちゃん、いままでは海に住んでたって言ってたのにー。私は海って見たことないけど、この湖のずっと先にあって、ここよりもっともっと広いんでしょ? 私、村から出たことないから その 「え、え〜と…あそこは…、………怖いですよ…。とっても ─── ペンコこと私、ランバルトはクーの胸元に抱かれており、なおかつ全力で締め付けられながらも、その小さな体が、心の底から恐怖に震えている事を クーは生まれてよりこれまで、長い長い50年もの間…、父親の意思により外へ出してはもらえなかったという不満はあれど、それ以外はなんの そんなクーはいま、その”我が家”という存在そのものに なぜか? その答えは実に簡単だ。 父竜バオスクーレが私に見せた殺気を、クーはまともに受けたのだ。そういう事に 昨晩、あの時──、 だが、ヤツは怒りに任せるがあまり、自身が何者か、までは考えが 父竜バオスクーレは、クーを逃がすまでは殺気を押さえていたつもりらしい。しかし、子供なうえに世間知らずの箱入り娘であり、真に恐怖というものを知らないクーにとって、その”竜”という生物の本性が放つ殺気とは、 しかも、その後には全力での、神殿自体が だとすれば、2階に避難したとはいえ、たかが20数メール程しか離れていない場所に隠れているクーが、何も感じずにいるわけがない。その殺気をまともに受けて平気でいられるわけがない。それがクーにどれほどの恐怖を与えるのかを、どうして想像できないのか? 事実、あの後バオスクーレが太陽の間へと バオスクーレはそれを ……ああいうのを、 …そう考えれば、あのような不出来な男に、” たとえ血の 逃げ出したのは正解だと言えよう。 いかに住み 「クーちゃん、クーちゃん! 大丈夫?」 「………え? …な、なんですルイサ?」 クーはあの時の恐怖を思い出していたらしく、夏の日差しの中にいるというのに顔色が真っ青になり、冷や汗を流していた。…昨日の今日なのだから、相当に あのような阿呆を親に持ったこの子は、あまりに この娘に同情はする。 ……だが、私に力さえ戻れば、最終的に殺す事には変わりない。 いかに 私は世界を 「クーちゃん! また明日ねー!」 「明日ですよ〜!」 日が暮れていく夕刻。薪小屋の あの3人とは本当に仲の良い友達で、村では数少ない同年代だという。クーは本当にいい友達に出会えた。クーが望んでいた最良の形での出会いと言ってもよいだろう。 3人の中では年長であるルイサという娘は 一つ年下でワンパク。そして そして最年少、まだ舌足らずな話し方をする幼子リック。ルイサの弟らしく、どこへ行くにも姉の手を …クーはいい友達を持った。そして、そんな気の合う彼らを見送った後に残るのは、日中のセミの大合唱が 彼らに代わって登場するのは、 しかも面白い事に、クーがその虫とはどんなヤツがなのかと探しても、虫の姿はどこにもないように見える。近づくと近くの曲は聞こえなくなるのに、自然に ……夜の地上世界を知らないクーにとって、これも クーの我が家である(であった)水竜神殿は、目の前にある薪小屋からすれば 幼き水竜の娘クーは思いを まだ出会って2日目だけど、とても気の合う友達が出来た。だから、いつか彼らと一緒に、世界を巡って旅をしてみたい。想像も出来ない色々な驚きを知っていきたい。それはさぞ楽しい事だろう。 「クーは、一人じゃないです。」 誰も友達がいない一人だけの世界は悲しい。だけどもう一人じゃない。クーはもう一人ではないのだ。 かけがえのない友がいるというのは、あまりにも素晴らしい。 「さて、おうちに入るですよ。」 今日からの新居。 それと共に安心したせいか、お腹からグ〜というわかりやすい音がした。思い出したかのような腹ペコである。 …そういえば、今日は今朝から何も口にしていない。昼前に目を醒ましてから神殿を飛び出し、遊び場へとやって来たら、ちょうど3人と合流して、……そしてこの薪小屋の準備を始めたら夕方になっていた…。 今になって食べていない事を思い出すほど夢中で遊んでいたものだから、すっかり忘れて気にもしていなかった。それだけ楽しく、充実した時間を送っていたのである。 いつもなら、父が用意してくれた夕食を食べて、お風呂に入って、すぐに寝る…という生活をしていたクー。だけど、ここは家ではない。自分は家から逃げ出したのだから。父というものが、恐怖の対象に変わったのだから、家に帰ることはできない。……あの恐ろしい あれは、本当に父なのだろうか? 実は別の悪い生き物がいるのではないか? 父ちゃんはあんな怖い顔などしない。父ちゃんはあんな恐ろしい生き物じゃない。 いくら考えてもわからない。 だけど、 理由はどうあれ、あれほどの恐怖が いつの間にか……、クーの寝息が聞こえていた。 さきほどまで全力ではしゃいだせいだろう。あの恐怖を忘れてしまおうとばかりに、空腹も忘れて深い眠りの世界へと 「(…さて、私は起きるとするか…。)」 ほぼ一日中、…ずっと …心の底では クーは私をヌイグルミだと それゆえに不安をぶつけるがごとく強く抱きしめるのだ。それは当たり前なのだろうが……、あのような子供だというのに、竜の筋力の恐ろしい事……。あまりに 「ふぅ…まったくエライ一日だった…。」 「しかし……、その妹グロリアも、トリニトラ姉さんの反応も……今日はナシか。」 自身が追い求めている姉妹の気配。それは魔神ならば そして妹ならば、こちらで探さなくとも、あちらから私の反応を見つけ出してくれるはずだ。だが、2日目とはいえ、まったく反応がない。 それに、 他の……あの”魔人プロジェクト”により生み出された 「まだ外へ出て2日目だ。… 短い手を前で組んで、考え込んでいるランバルトは、魔神とは違う別の気配を察知した。それは見るまでもなく知っている気配、…水竜バオスクーレのものであった。 奴は竜に変化するわけでもなく、私に その両手は大きな荷物で 「ほう…、父親失格者がご登場か。クーをまた自分の箱庭に戻しに来たのか? 今度は発狂しなければいいがなぁ…。クックックッ……。」 こちらに手を出せない事は バオスクーレは少しだけ歩みを止めたが、それでもこちらへ向ってきた。……昨日の殺気はどこへやら、怨敵を前にしているというのに、 「…クーの食べられそうなものを持ってきた。」 何かを言い返すわけでもなく、バオスクーレは手に抱えていた 「ほぅ、 ランバルトはこの父竜のやり方が非常に気に入らない。子供の 「私は……。」 果物を置いたバオスクーレは、薪小屋の扉の奥で寝息を立てているクーへと視線を向け、何か 「私は確かに…、親であるという権利を 「───だが、いまのこの状況を見れば、自分が間違っていたというのはわかる。私は自分の愛情というものを優先させすぎた。……その結果は受け入れるつもりだ。」 親という名の 「………敵の私に……、それを 「……そうだな…。まったくだ…。」 バオスクーレは、そのまま背を向けると、振り向く事なく足早に立ち去った。それにしても、昨日とはまるで別人だ。あれが本当に昨晩と同一人物なのかと あの阿呆は自分本位とはいえクーを 「ふん……、まあ、いい気味だ。」 敵という立場を考えると、何がどういい気味なのか、ランバルト自身にもハッキリとはわからなかったが、ポロリと出た言葉はそれだった。自分で発言して、なぜそう思ったのか? たかが敵の親子の話で何をそんなに怒っているのかがわからず、ランバルトは短い腕を組んで、しばらく ただ静かな夜。一人立ち尽くしていた彼女は、ふと気がつく。 そういえば、目の前にはバオスクーレが置いていった大量の果物がある…。どうみても一人では食べきれないほどの数で、ヌイグルミであるランバルトの …あの阿呆、そういう事を考えもせずに持ってきたに違いない。クーを心配し、手当たり次第に集めてきたのだろう。親馬鹿というのは判断力を …私はいくら妹が可愛いからとて、このような阿呆な行動はしない。そこまで姉馬鹿ではないからな。ああはなりたくないものだ。 ひとしきり、自分のセリフに満足したランバルトは、 「…ぬ?」 大量の果実を 「……ちょっと待てよ…? これだけの量の果実を、誰がどう持ってきたとクーに説明するのだ…?」 クーが目覚めれば、当然これを見て腹を満たす。だが、1個ならまだしも、これだけ大量の果実がまとまって置かれていれば、間違いなく”誰が置いたのか?”を考えるはずだ。いかに子供とはいえ、考えないはずがない。 しかも私は ………奴はやはり阿呆だ。阿呆すぎる…。 クーが心配のあまり、食べきれないだけの量を持って来ておいて、バレる可能性をすっかり失念しているではないか。クーならば、これらを持ってくる可能性が一番高いとまず考えるのが父バオスクーレであるとわかるはずだ。 だが、いまのクーは、父が持ってきた果物だと知れれば余計に これは、ヤバイぞ……。非常に非常にヤバイのではないか? 私が。 考えてもみろ! 今日のクーでさえ、私を全力で抱きしめていたのだ。 これ以上あの竜の筋力で強烈に抱かれ続ければ、私はミンチになってしまうではないか! 「ええい! 本当に阿呆だな、あのバカ竜はっ!」 ランバルトは 一番 ペンを取り出したまま、 固まる事、1時間……ついに私は会心の答えを見つけた。これしかない!
ランバルトはこういう手紙を 先日、クーを地上に そんな手紙を書き終えたランバルトは、なにか その正体が何であるのか? 彼女にはさっぱりわからないでいた……。
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