|
────ルーアン市・遊撃士協会 目の前でふんぞり返っている女王様チックなお姉さん、 二つ名が【夜の帝王】?? うわ…、なんというか、すんごい二つ名だ…。確かにあの女の人を見ているとそんな雰囲気がする。 ジャンさんの説明に納得しながらも、再び僕が振り向いた時、 すでに彼女の姿はそこになかった。 というより、 僕 の 目 の 前 に い る ! ! 「ぎゃあっ!!」 「あらぁ…、ボクちゃんは新人君ねぇ?」 どう見ても僕を すると、 「う〜ん、イマイチね。チェリー君。」 「チェ、チェリー…って…。」 などと言うオアネラさんは僕からあっさり離れた。正直助かったと そして今度は、順番通りとでも言うかのように、当然のようにアガット先輩の前へと歩み寄る。 「あら、やだ〜、ボウヤったら待っててくれたのねぇ! お姉さん感激だわ〜。ケェッヘッヘッヘッヘッ!」 「来るんじゃねぇ! 来るんじゃねぇぞ!」 先輩はなんと重剣を構えていた! 寄れば斬りそうな勢いで …いやはや、なんとも 僕は心の中でささやかな応援を送りながらも、いまのうちにカウンターの後ろに隠れることにした。…怖いから。 「ああ〜ん、もう! いいじゃないのぉ。運命の再会を祝して、また熱ぅ〜いク・チ・ヅ・ケ、をしてあげるわ☆」 「ば、ば、バカ野郎っ! 何言ってやが───!!」 その言葉に、僕どころかその場の全員が氷付いた。 ……え、”また”? また熱いクチヅケ…ってアガット先輩…、もしかして…。 「なぁに? そんなに喜んじゃって、あの 「いっ! な、何が逢瀬だっ! 俺は アガット先輩は顔色をスカイブルーに 昔、アガット先輩はいまのクルツ先輩と同じような目に ああ、エイドスよ…。彼の心を救いたまえ…。 「あの……、また…って、なんですか?」 そこで声を上げたのはティータちゃんだった。彼女は 「なあに? ティータちゃんの小さな 「いま……またって…聞こえました。あの……それって…。」 キスしたんですか?と聞きたいんだと思う。アガット先輩が好きなティータちゃんからすれば、気になって当然だものね。 「お、おいっ! ティータ! いや、違うからな! 俺がしたくて───」 「そうなのぉ、このボウヤがしたいって言うからぁ、仕方な〜く唇を奪われたのぉ〜。」 オアネラさんは、まるで恋する乙女のノロケ話でもするように、身体をくねくねさせながら、アガット先輩にしなだれかかって言います。先輩は一生懸命に逃げようとするのですが、壁まで追い詰められて逃げ道がありませんでした。計算されてました。 「…この 「フザケタ事抜かしてんじゃねぇっ!!! ブチ殺っ───、くっつくなって言ってんだろが!!」 「なぁに〜、テレちゃって。キスしたのは変わらないでしょぉ。」 「てめえ! 調子に乗りやがって!」 「……キス…したんですか?」 対照的に、ポツリと一人 「違っ! …違わねぇっていうか、…そ、そりゃあ確かに唇を奪われはしたけどな、あ、あれだって───。」 「いや〜ん、どうしましょう! 恥ずかしいわぁ!」 あまり事情を知らない僕から見ても、オアネラさんの態度は それにしてもアガット先輩のうろたえ方がハンパねぇっス…。 僕が先輩に 英 雄 で あ る 前 に 、 や は り 人 の 子 ! ! 「あの、…あの……。アガッとさん、もしかして…その人の事……。」 「ご、 「あはぁ〜ん、思い出してもゾクゾクしちゃう! 燃えるような瞳でアタシを抱きしめ、情熱的なキスを……。」 「テメェは 「……やっぱり……。」 「だ、だからっ!! そうじゃなくてだな……! 俺は───」 えーと…なんだろう、この修羅場…。僕も今まで色々なもめ事を それを知っているかのように、面白がって うろたえるアガット先輩。 うう、なんか具合が悪くなってきたっス。もう帰っていいスかねぇ…。 弱り果てて、どうしようかとジャンさんと顔を見合わせた頃、オアネラさんがとんでもない爆弾発言をしました。 「…ふぅ〜ん、 「……………。」 オアネラさんの問いに何も答えないまま、 「あらあらぁ? もしかして、それ以上を期待しちゃったりした? 冗談はやめてよね〜、アンタどう見たってお子ちゃまじゃないの。なにそれ、笑っちゃうわぁ。」 「………………。」 何も言わず、ただ 「てめぇ、いいかげんにしやがれっ! ガキいじめてんじゃねぇ!!」 しかし先輩が怒りをそのままに、まさしくライオンであるかのような 「覚えておきなさいな その言葉を耳にしたティータちゃんは可哀想に……目に涙をいっぱい溜めて、とうとうポロポロと泣きはじめてしまいました!! 流れる涙に際限はなく、手の甲で 「オアネラぁ! テメェこのクズ女がぁ!!」 まるでイジメでもしているかのようなオアネラさんの口調に、とうとうアガット先輩が完全にブチ切れ、今度こそ、その豪腕でオアネラさんの その直後、ティータちゃんが小さく、本当に小さく 「…ご…めん…なさい……。ひっく…、じゃま…して……ごめ……なさい……。」 そのまま、逃げるように走って出て行きます! 僕らは追う事も忘れ、 「お、おい! ティー…」 その後を追おうとしたアガット先輩ですが、その行く手を いかに僕が温厚でも、これはさすがに許せません! いくらなんでも言いすぎっス!!! 僕は怒りに任せて、オアネラ目掛けて言い放ってやったっス! ”おいキサマ! なんてヤツだ! お前はどうしようもない悪女だ!” ……と、心の中で精一杯に叫びました…。 ううう…、笑いたければ笑うがいいっス! そんな事を口に出したら、マジで殺されるっスよ! 「ティータ! …くっ、オアネラ! テメェいい加減にどきやがれっ!!」 泣いて出て行くティータちゃんの背中を見送る形となってしまったアガット先輩は、なんの だけど、オアネラさん、…いや、オアネラはそれでも余裕の表情を 「ケェッヘヘヘ! アタシに その言葉と同時に、着地の反動を生かしたオアネラの なんと! 彼女が狙ったのは、足と足の合間にある、男の大切な大切な…、ああああああああ、…っス!! 僕もジャンさんもその瞬間、下半身のそれを手で防御しました! うわああ…、いくらなんでも、あれ…への攻撃はヒドイ…。あんまりだ…。 「ぐぉ……、が……が……。」 完璧なタイミングでクリーンヒット! さすがのアガット先輩も、攻撃されてはならない部位へと強打を喰らい、 「あらやだ〜、大丈夫ぅ? 僕らの目の前に広がっているのは、まさしく悪夢でした。 紫の口紅をクチに残したまま、失神しているクルツ先輩。 某所への手痛いダメージで、白目を 本来なら仲間が二人もやられれば、僕だってただ、見ているわけにもいかないんですけど、 そもそもは いや…、いやいやいやいやいや、…そんな理由じゃないっスね。 正直、この女を見ているだけで物凄く怖いのです。 だってこの人、同じ遊撃士だからって 「ケッヘッヘッヘッヘ……! イーヒッヒッヒッヒッ!!」 オアネラのやけの特徴あるバカ笑いがルーアン支部へと響き渡り、残されたシャムシール団の面々は、歯をガチガチと鳴らして恐怖していました。後でジャンさんに教えてもらったんですが、この時の僕も彼らとまったく同じ状態だったそうです。 その後、オアネラは高笑いと共に上機嫌で出て行き…、 嵐の後のルーアン支部には、事態の傷跡だけが残されてたっス。 ジャンさんと僕とで倒れた先輩達を2階の休憩室に運んだ後、ジャンさんはツァイス支部にいる遊撃士の古株、グンドルフさんへと相談してみると言いました。本来ならアガット先輩の師匠であるカシウスさんに話すべきなんでしょうけど、あの人は軍の仕事で忙しいっスからね。 だから、代わりにグンドルフさん、というわけじゃないんです。カシウスさんがリベールの グンドルフさんなら、きっとオアネラについてもどうにかしてくれると思うので、期待してるッス! …それで僕はというと、 まずはオアネラが捕らえたシャムシール団を、港の倉庫区画に立てられた仮 軍部が引き取りに来るまでルーアン支部に置いておくわけにもいかないので。 さすがに四人もの護送を一人でやるのは で、それが済んだら、その後はもちろんティータちゃんの う〜ん、こういう時こそ、カルナ姉さんがいれば適任なんだけどなぁ。女の人の事は女の人がいいに決まってるっス。 僕なんかじゃ、こういう時にどうフォローしていいんだかサッパリだし…。 聞き込みをしながら行方を捜していると、目撃証言はそこらじゅうにありまして…、探すこと10分、苦労もなく港地区にある食堂アクアロッサの先で、しょんぼりと海に向かって座っているティータちゃんを見つけられたっス。 その後姿はあまりにも痛々しく、そして小さな背中が余計にしぼんでて、まるで消えてなくなっちゃいそうです。 …いまはそっとしておこうかと思ったんだけど、港地区は未だにレイヴンの残党が残っているので危険区域を解除されていないんです。ロッコ君達が抜けても、まだ ここはやっぱり、遊撃士協会に戻ってもらう方がいいっス。 なので、僕は ……その時! 「待ちな、チェリー。アンタの出る幕じゃないよ。」 「い───! ふんぎゃあっ!!!」 後ろから、なんの気配もさせずに現れたのは、オアネラだった…。どこに行ったかと思えば、なんでこんな場所に出てくるんスか!? それよりも、なんでここが?? 「あんたも大した事ないねぇ、まったく…そっちもチェリーかい。こんな派手な女の尾行にも気づかないとは…。」 「へ? び、尾行…?」 どうやら、オアネラは僕の 「別に尾行しなくても、その辺で聞きゃあ、あの子の行き先はわかっただろうけどね。」 「あら、そうッスか…。」 ぐぬぬ…、どちらにしろ、僕は気配とか尾行とか、そういうの全然わかりませんけど…。 「まあいいさ。チェリーは邪魔だから先に帰りな。アタシはあの子とサシで話がしたいんでね。」 「さ、先にって、一人でなんて帰れないっス! それよりも、チェリーって言うの、やめてくれませんか?!」 この 「おや、 「いえ……。その通りです…。」 そういうわけで一人どん底まで落ち込む 「よう、 「───!! ひっ……!」 そりゃあ これでまたオアネラが何かするようなら、今度こそ僕も何かしなくちゃいけないように思う。さすがに目の前で放置はできない。いくら怖いといっても、そこは遊撃士なので一応は止めに入らなきゃならない。(なるべくなら何もないようにお願いしたい) 「ふふん、取って食いやしないわよ。…ねえ、 「………か、賭け…ですか?」 腰が引けているティータちゃんは、すでに泣きそうな顔でオアネラの提案を 「そぉよ、かーけ。…アンタも女なら、好きな男が自分をどう思ってるか知りたいんじゃないの?」 「………え……?」 その突然の提案に、涙の浮かんだ目を丸くするティータちゃん。…この女、またもや何か良からぬ事を考えている。すぐにそう感じたんだけど、それでも僕もその賭け、とやらには非常に興味を引かれる。 「それとも嬢ちゃん。アガットの事を 「……………。」 「だからさ、賭けをしようってのよ。アガットの気持ちが実際どこにあるのかをさ。そうしたら、アタシの言う事が間違っているという可能性もあるわけよ。…まあ、賭けというより実証とでも言うべきかしらね。」 「実証…。アガットさんの気持ち…。」 「やっぱり興味深々のようねぇ。ふふ〜ん、じゃあまず……。」 僕は少しでも聞こえるように、と近づいて耳を 「チェリー、やっぱりアンタは協会支部に戻ってな。…それとも、女同士の話に聞き耳立てようっていうの? いやらしい。」 「い、いやらしいって…。」 「なんなら約束しようじゃないの。このオアネラ=エペランガの 「うう…、そうまで言われると……。」 まったく信じられないセリフなんだけど、どうもこの人ってそういう 「…あの、ゆ、遊撃士…さん。わ、わたしからも、…お願い…します。」 驚いた事に、なんとティータちゃんが僕にそう言った。とっても真剣な目で、見たこともない強い気持ちをした瞳で僕にお願いをしてるっス。 僕はアガット先輩ほどティータちゃんの事を知らない。だけど、自己主張のあるほうじゃないのはなんとなくわかる。遊撃士仲間の、エステルちゃんみたいに快活って程でもないのもわかる。 だけど、いまのこのティータちゃんの瞳には、なんとなく決意、のようなモノがみれたように思えてしまう。 だから僕は、仕方なく二人をその場に残し先に協会支部へと戻る事にした。 不安はもちろんあるんだけど、そうするべきかな、と思ってしまった。 ───遊撃士協会ルーアン支部 夕刻 「ただいま〜っス。」 「おや、お帰りメルツ君。ティータちゃんは見つからなかったのかい?」 出迎えてくれたのはジャンさん一人。まだアガット先輩、クルツ先輩は 「…そうか。そうまで言われてしまうと、さすがに戻らざるを得ないね。オアネラさんだけでなく、当のティータちゃんまでが言うんじゃあ。」 「あ、それでジャンさん。グンドルフさんには相談したんスか? 何かいい手はないんスかね?」 「うん。それなんだけど……。」 するとジャンさんには 「…グンドルフさんが言うには、”あれはもう本人が飽きるまで好きにさせるしかない”んだそうだ。」 「げげっ!! な、なんでっスか? だって先輩の先輩の大先輩なグンドルフさんなんでしょ!?」 「いや…、どうやらグンドルフさんも、あのオアネラさんには強く言えない事情があるようなんだ…。念のためグランセルのエルナンさんにも確認したんだけど……。」 それ以上を口にはしなくとも、僕もその先を察する事ができた。どうやら、あのオアネラという女は、想像以上にとんでもないヤツらしい。しかも男性遊撃士は、みんなこぞって反撃できない共通の理由を持っていると考えるべきだ。 僕とジャンさんは、二人して黙り込んでしまった。 「くそ…、油断したぜ…、あのクソ女…。」 ちょうどその時、2階よりゆっくりと階段を下りてくるアガット先輩。やっと目を覚ました。どうやら 「おい、ジャン! あの女はどこだ?! それにティータもだ!!」 「あ、ああ。それなんだけど───。」 「ちわー! 遊撃士協会宛の郵便でーす!」 ジャンさんがそれまでの 「ああ、メルツさん。実はこの手紙なんですけど、いまさっき、通りでお預かりしたものなんですよ。…なんというか、すっごい美人でボイーンな女の人です。」 「へっ? オ、オアネラさんから!?」 その その手紙には、こう書かれていた────。
「…………………。」 「………………………。」 僕と、アガット先輩は一瞬、その そして 「…あ、あのクソ アガット先輩は火山のごとく大爆発した。 すでに時間は夕刻に差し掛かり、水平線へと沈み始めようとする日の輝きは もう両方を同時に行うのは絶対無理な時間だ。だけど、どちらも ティータちゃんを救って街の安全を捨てるか? 街の安全を守ってティータちゃんを見捨てるか? 二つの選択は、同時には あの女…、何を考えているのやら、さっぱり不明だ。
|