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…幼き少女レンは そして だが、相対する敵はこれまで刃を交えたどの敵よりも強い。 攻めあぐねているその だが…、それだけの戦術を 戦闘開始より5分…、数度の打ち合いを経て、すでに三百を越える攻め手を考え出す事が出来るレンですら、その敵を前にすれば いつの間にか この相手と戦うのは二度目。一度目の立会いでは完全に手も足も出なかったと言えよう。彼女を含む4人がかりでやっと しかし、今回は違う。あの勝負より だが、その想定はあまりに甘く、敵の実力はその とはいえ、それが本心だとしても、態度で示せば敵は必ずそこに付け込んでくる。高レベルの戦闘において、弱点を 「さすがね、カシウス・ブライト。でも、そう何度もやられるレンじゃないわ。その 「…ふむ。どこからでも好きに狙うといい。ただし、可能なら…の話だ。」 今、レンの前に獲物を 彼の武勇伝は数限りなく多い。 かの百日戦役では、その 中肉中背ですらりと背が高く、やや それに対し…、レンは元・秘密結社【身喰らう蛇】のエージェントであリ、その実力はエステル、ヨシュア以上という程の実力者である。その強さは有無を言わさず誰もが認めるLVにまで至っている。…だが、そんな彼女が全身全霊を持って挑んでいるというのに、まるで仔猫でも扱うかのようにいなされ続けている。 普通であれば激しい怒りに狩られ、敵意と殺意を増すはずの彼女が、この戦いに限っては不思議とそういう気が沸かなかった。カシウスの身体から発せられる気は、あまりにも安らかで大きく、どこか親しみが持ててしまう…そんなおかしな雰囲気を持つ中年であった。 だからと言って、この戦いに手加減などという無粋が入る余地などない。和解も休戦も有り得ない。 どちらかが地に 「なら───これでどうっ!?」 初速からトップスピードという レンが放つ、まさかの体術! 彼女が天才と呼ばれる所以は、武器だけがエキスパートだからというわけではない。一通りの武術、戦闘を全て会得し、他者を寄せ付けない強さを持っているからこその天才なのである。その気になれば、身喰らう蛇の執行者で、格闘術において無類の強さを持つヴァルターの得意技である破砕系Sクラフト”零インパクト”でさえ放つ事ができるだろう。 確かに体術はグレートシックル(大鎌)の部類に比べれば 「慣れない攻撃は無理が出る。さすがに当たってはやれんな。」 だが、カシウスはその全てを難なく受け流した。そして次の瞬間、稲妻のような動きでレンの 「───ちっ!」 舌打するレン。そして同時に、回避しただけでは終わらない事を悟っていた。この体制を だが、カシウスは追い討ちをしてはこない。 それどころか、さきほどから一歩も動いてすらいない! 彼は自身を中心として防戦をしているだけで、自らは一度も攻めていないのである。 「いい反応だ。…だが、もう少し攻め切れていれば、俺に反撃の間を与えずに次の技へ接続できたんだがな。」 「くっ…、腹が立つわね…。けっこう本気で攻めたのに。」 「しかし、体術は基礎が出来ていなければ威力は出ないものだ。無理を強いれば成長の 「…ご高説とは痛み入るわ。でも、お説教するのならレンを倒してからのするのね。」 カシウスの 彼は世界の” だが、レンは負けるわけにはいかない。必ず勝たねばならなかった。もう後がないのだ。 英雄カシウスを倒す、それがレンに残された 「ふん、いいわ。…そんなに その言葉と同時に、レンの身体を その小さな身体より噴き上がる念は 「これなら避けられないわ!」 絶対の自信を持つSクラフト。確かにこれならば命中させる事はできる。回避させる間など与えはしない!! …しかしながら、これは最大攻撃であると同時に、自身の最高威力を相手に もちろん、普通の相手ならば、見切るどころか それはつまり、レンの能力の最大値を相手に知られてしまう、という事に他ならない。だからこそ、切ってはならないジョーカーであり、 だが、切らざるをえない。これまでの攻撃の一切が通用しないのであれば、この最大の一撃でねじ伏せる以外に方法がないのである。これこそが最上にして、最後の手段でもある。完璧に 「さあ、 先ほどの加速をさらに倍以上も上回る超高速…、まさに神速で 「ならば──…。迎撃させてもらおう!」 カシウスはそれほどの技を目にしても動揺する事なく、流れるような動作で体制を低く構えると、Sクラフト「桜花無双撃」の型をとる。自身がその場を動く事無く、攻撃を迎撃するには最も適したSクラフトである。そしてその威力は巨大人形兵器をも破壊する程だ。 現在はエステルが使っている技だが、元々それはカシウスの指導により会得したもの。彼が伝授した技である以上、技の熟練度がエステル以上なのは当然のこと。間違いなくエステルが放つ威力以上の攻撃力を秘めている! 彼の修めた《八葉一刀流》は全ての武術に通ずる。そして今、その積み重ねられた力量が、英知の結晶が、この技に全て注ぎ込まれていく。レンの放つSクラフトを迎撃するため、全身の気を高めていく! 英雄という選ばれし者だけが 「覚悟するのね! カシウス・ブライトっ!!」 「…残念だが負けられんな。俺にも意地がある。」 神速と神速が火花を散らして激突するっ! ぶつかり合う邪気と覇気が、─── BGM:英伝・空の軌跡FC「旅立ちの小径」(サントラDisk:1・03) 「こら!! なにやってんのっ!!」 激突したちょうどその時…、そこに登場したのはエステルだった。 右手には布団叩きの棒を、左手にはブタさんの顔を 「あ、エステル。」 「なんだ、エステルか。今いいところなんだ、邪魔せんでくれ。」 レンとカシウスは、邪魔が入ったとばかりに不機嫌な顔で互いに武器を 「いいところ、じゃないでしょっ!! 掃除はどうしたの?! 掃除はっ!!」 なにやらメチャメチャ怒っているエステルは、怒りに任せ、布団叩き棒でブタさんクッションをバンバン叩きながら しかし、始めてみると床にも壁にも長年の ……何か勘違いされても困るのだが…、別にレンとカシウスは、憎みあって戦っていたわけではない。ただ単に、掃除をサボって、少々本気でチャンバラしていただけの話である。 ようするに、遊んでいたのだ。 そんなわけだから、エステルが怒るのも無理はない。彼女一人で奮闘したところで、にっちもさっちもいかない状況だというのに、主戦力のはずの残り二人が掃除しないどころか、よもや …ちなみに、ブライト家最大の家事戦力であるヨシュアは、午前中だけ遊撃士協会の王都支部へ出掛けている。午後にならなければ戻らないのだ。 そういう事情もあり、このまま二人を遊ばせておくわけにはいかないのである。テキパキと掃除してもらわなければならない。 「だいたいねぇ、父さんは自分の部屋も終わってないでしょーが! 荷物すら運び出してないじゃない!」 「あー…、まあ、そうだな。そういう言い方もあるな。ハッハッハッ! ……すまん。」 世間では伝説の英雄とはいえ、我が家に戻れば娘にはからきし弱いお父さんである。 怒られて小さくなっているカシウスを、いい気味だとでも言うようにクスクス笑うレン…。 しかし、エステルさんは 「レンも笑ってる場合じゃないでしょ? あんたは部屋の掃除すらまだじゃないの! このままじゃ日が暮れちゃうでしょっ!」 「だぁ〜って、レンがそんなホコリっぽい事するなんて似合わないもの。部下でも呼んで、やらせておけば十分よ。」 「ど・こ・に・そんな部下がいるのよ! 自分の部屋は自分でやるの! とっくにうちの子なんだから、そういうトコはキッチリやらなきゃダメなの! いい?! ちゃんとやんなさい!」 「う……、しょ、しょうがないわね…。」 さすがのレンもエステルの …戦闘能力はさておき、ブライト家で一番立場が強いのは間違いなくエステルなのである。ブライト家の仕切りに関してみれば、これほどに恐ろしい支配者はいない。我が家の怒れる帝王の前では、時代に選ばれし英雄も、類稀なる天才も、肩身を狭くして しかもその剣幕は凄まじく、その恐るべき怒りのままに、バンバン叩かれるブタさんのクッションが可哀想に思えるくらいだ。逆らおうなどとは思うわけがない。レンもカシウスも 「待てエステル。俺達は遊んでいたわけじゃないんだ。これだ、これ。」 「そ、そうよ。レンも遊んでなんかないわ。これを運ぶのをどちらか決めようとしてただけよ。」 しかし、カシウスもレンもは大人しく屈する気はないようで、いまの戦闘が必要であった事を主張し始める。二人が指差すそれは、10冊ほどの本がまとめられた、なんの 「…これが、何?」 エステルが、さっぱり意味不明だという 「いや、実に重そうだろう? 俺もいいかげんいい歳だ。重い 「ふん、か弱いレンがそんな重い物を運ぶはずないのに。いきなりジャンケンを仕掛けてきて、勝ったんだから運べ、なんて言うんだもの。承諾できるわけないから戦闘になったの。レンのプライドに それを聞いたカシウスは真剣な顔つきで腕を組み、リベール王国軍部総司令さながらの 「…確かに不意打ちでのジャンケンというのは公平性に欠けたな。そうなるとだ、その勝利が百歩譲ってドローだとすれば、今回の戦闘はやむを得ない選択という事になるな。」 「ええ。列記とした 「避けられない運命の 「そう、歴史は常にその積み重ねよ。人は予定調和の中で生きているのではなく、 「つまり、これは起こるべくして起こった────」 「ど う で も い い か ら、 さ っ さ と 掃 除 し な さ い ! 」 我が家の帝王、エステルが笑顔で怒っていた。 こめかみに青筋を浮かべて笑うその形相は、2人がこれまで見たどんな敵よりも恐怖であった。 「「はい。」」 そういうわけで…、わかりやすく 「うん? …いや、これは無理だな。」 そこで気がついたのはカシウスだった。自分の 「いまの激突で折れたようだ。残念ながら、これじゃあ掃除はもう出来ん。」 ちょうど真ん中でポッキリ折れている だが、彼らは エステルの顔を見て、それはただ、怒りという火に油を注いだだけだと気づいてしまった! 「だったら…代わりの 「よし、逃げるぞっ!」 「賛成ね!」 カシウスとレンは、折れた箒をほっぽり投げて一目散に逃げていった。類稀なる天才の全能力と、時代に選ばれし英雄の真の力を駆使し、最大速度で逃げる逃げる! ゼムリア大陸広しといえども、ここまでの逃げっぷりを見たのはエステルくらいだろう。 …まったくもって嬉しくもないが。 「こらぁ!! 寄り道しないで帰ってきなさいよ!! 分かってんの!?」 木々の合間から届くエステルの怒声に 向かうはこの先、ブライト家から この物語は、ほんの少し先の未来に起こるかもしれない、レンの 家族というものに
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