水竜クーと虹のかけら |
|
「むきーーー! いま馬鹿にされたですよ! あの いましがた しかもエサを ラファイナ王国の守り神ともあろう者が、 「…ま、まあまあ、落ちついてよ、クー。今日みたいに運が悪い時もあるさ。また そんな彼女をなだめるように言うのは、優しそうな顔立ちをした茶色い髪の少年。見た目ではクーより少し 「む、チョコくれるですか? そいつは魅力的な申し出ですよ。許してやらん事もないですよ〜。」 自分で魚は釣れずとも、食べ物で見事に釣られたクーが、あっさりと怒りを静めようとしていた。…しかしそれを許さない者が一人いる。 「バカモノ! ユニスは何もわかっておらんな! ……これ、クーよ! ここで魚なんぞに竜が負けたとあっては、水竜の 少年の ただし……いま現在は、どうしようもない程に、─── ただの親バカである。 そもそも、ランバルトとクーは親でもなければ子でもない、立場だけを見れば敵同士だったはずなのだが、長年共に過ごした事で、情が 「はぐはぐ……むぅ。ランちゃんの言う事も……ばくばく……まあ、 さて、あくまでマイペースなのがこのお ユニスの、これまでの経験から 「……ランバルトさん、ここは 「ほほぅ、クーが心優しいとはズバリだな! ユニスよ、キサマは 「落ちついてもらえて、なによりです。………はぁ……………、よかった……。」 クーが怒り出す、ユニスがなだめる。 しかしランバルトが …それが最近、いつのまにか出来ていた黄金パターンである。クー達とユニスが出会ってより1カ月の日々が流れた今では、すっかり打ち解けたどころか、ユニスがいなくてはマッタクもって 出会ってよりの1週間ほどは、水竜の事を詳しく知らないとは何事だ!…と称して、事あるとごにユニスは正座させられ、説教をされたものだ。ほとんど初対面の頃に、クーの好きな食べ物だの、江戸とかいう旧世界の質問だの、水竜とはオオヨソ関係がない妙な話をされていた。 ユニスとしては、ラファイナ王国が神と奉る水竜なのだから、 ……いま考えれば、クーも遊び相手が欲しかっただけで、真面目なんだけど実際は遊んでいたのだと理解できるのだけど、それでも最初はそれを理解するまでに苦労したものだ。 そして今も、目前でチョコを ちなみにその水竜様は現在、 「しかしユニスよ。キサマも毎日ヒマそうだな。我々はともかく、一般人というのは、日中は働いているのが基本なのではないのか? それとも王子という立場は基本的にヒマなのか?」 ペンギンのランバルトが、クーから半分ほど奪ったチョコを食いながら問う。彼女?の問いは最もなものだ。実際、クー達と出会ってよりのユニスは、毎日、朝から日没までクー達と遊んでいる。 「…ええ、立場としては良くないんですが、……今は、休養中ですから。」 ユニスはクー達と出会う前まで、一日の全てと言っていい時間を将来の勉強へと しかし、出会った日を ……つまり、 もちろん、休養中という彼の言葉も間違いではない。 彼には、その優しい心を休ませるだけの時間が必要だったのだから……。 「ユニス、これウマいですよ! この魚、チョコの味がするですよ! ユニスもこれ食べるですよ。」 「え”……、い、いや、僕は釣るのに 水竜様といるのは、こういう部分で どこまでも晴れ渡る 「あ、そうだ。釣りで思い出したけど、クー達がこの湖に来る時、途中で大きな魚を目にした事はない?」 「大きな魚……ですか?」 始まりはこれ。ユニスがなんとなく振った話だ。クーはひとまず食べ終わったチョコ味魚にご 「見ておらんな。」 「ですよー。」 一緒になって首を横にヒネるという……非常にわかりやすいリアクションで答える二人に、ユニスはまだ話していなかった事を教える事にした。 「こういった湖や河にはね、それぞれに”ヌシ”と呼ばれる魚がいるんだって。大抵は大きな魚で……、つまるところ王様みたいなものかな。そういう魚がいるんだそうだよ。」 大人しく聞き入る二人。ユニスはそのまま話を続ける…。 「釣り人はね、それを釣り上げると一人前なんだって。」 なにげなく話したつもりだったわけだが…、聞き入る二人の 「おおおおおおおおおお、それはGOODではないか! なあ、クーよっ!」 「ですよ!」 キラキラと瞳を 「水竜の許しもなくボスを名乗る不届き者をひっ 「ですよ〜。」 「あの……、一人前って言っても釣りの話ですけど…。そりゃあ確かに水竜に また話が変な方へと 「バカモノ! 「クーは三人前くらいなら、ペロリと食べれるですよー。」 …ようするに、ランバルトには可愛いクーが魚ごときに負けているのが気に食わないわけだ。しかし、クーの方はというと、口から 「ふふふふ…、いまこそ私の持つ空間制御能力を見せる時が来たようだな…。」 ランバルトが邪悪な表情をしながら、湖へと視線を移した。 「よし…。では、クーよ! 私がいまからこの湖全体を 「ランちゃんの馬鹿ーーー!」 「ごふっっ!」 強力なクーのパンチが、ランバルトの 「…な、なにをするのだ、クーよ。」 「ランちゃんは間違っているですよ!」 「粉々にしたら食べにくいですよ! クーは串焼きじゃないと嫌ですよ!」 「ガーーーン……。そ、そうか……。私とした事がなんたる 「わかってくれればいいですよ! クーはランちゃんならきっと分ってくれると思ったですよ〜。」 「おお〜〜、クーよ、 二人は強く強く抱き合いながら熱い涙を流していた。その一方で、ユニスは 「あの…………、釣りの話なんだけど…。」 「ユニスは甘いですよ。ちっとも理解してないですよ。最上級のデカイ魚を食べられるチャンスですよ!」 クーさんの …ユニスはようやくマズイ事を言ったのに気がついた。もう 「ふふふ……、いまこそクーの得意な高速スイミングの実力を見せる時が来たですよ…。」 クーは口の 「よーし。じゃあ、クーはいまから 「クーの馬鹿ーーー!」 「がふっっ!」 強力なランバルトのパンチが、クーの 「…な、なにするですか、ランちゃん…。」 「クーは間違っているぞ!」 「敵を 「がーーーん、そ、そうですよ……。クーとした事がなんたる失態! 敵が食べきれない程の大きさかもしれないと 「わかってくれればよい! 私はクーならきっと気付いてくれると思っていたぞ!」 「ランちゃん〜〜、 二人は強く強く抱き合いながら熱い涙を流していた。その一方で、ユニスは 「あの…………、二人共……。口を 友情なんだか愛情なんだかは結構なんだけど、お互いが (この後、彼女らを把握したとしても、ツッこんではいけないと知るだけなのだが。) 「む、ユニスよ。 「……え、あっ! 本当だ!!」 色々と 「ちょ、ちょっとクー! 助けてっ!! もしかしたらヌシかもしれない!」 「おおおお! 飛んで火にいる夏のモシとはこの事ですよ!」 「いや待てクーよ、夏のモシってなんだ? ……虫ではないのか? モシなのか?」 ユニスの 「ランバルトさん! 首が 「む、そうか。では私はどこを引っ張れというのだ? やはりここがしかない。」 そう言っている間にも 「わっはっはっ! クーから逃げられると思わない事ですよ! 夏のモシ!」 「ぬぅ! やはり夏のモシなのか? 虫ではなく、モシが正しいのか?」 クーは喜んでいる。ユニスは苦しんでいる。ランバルトは混乱している。 格闘する事、10分───。 波立つ 魚だ。それもかなりの大物。2メールは軽く超えるのではないかと思われる、超大物である。ハーフとはいえ水竜であるクーが引いているというのに、いまだ 「おおー、すげーですよ〜。」 そんな力強さにクーは プチッ! そう思った瞬間、糸が切れる。 無理に引きすぎたのと、戦いが長引いたのとで釣り糸の強度が失われてしまったのだ。 いきなり引く力が消えたたの、一斉にひっくり返る3人。そして針を 「うきーーー! これで昨日から通算18回目ですよ! 魚のくせにナマイキですよ!」 翌日。……今日もやっぱり釣れないクーは、暴れ出す前にユニスからクッキーを 「クー。紅茶飲む? 持ってきたけど。」 「飲むですよ〜。」 でも今日のクーは釣れていなくとも機嫌がいい。同じ失敗するにしても、なにやら 「また昨日みたいなヌシが掛かるといいね。…でも、2日続けては無理かな。」 ユニスはそう言って、少し気落ちしているのかな?と 「んー、クーはですね〜、昨日のヤツとはまだ 「どうして? またアタリが来たら、今度は釣れるかもしれないじゃない?」 そんなユニスの問いに、クーは楽しそうにニンマリと笑って答えてみせた。 「昨日の勝負はクーの実力が足りなかったですからね。マグレで釣ってもクーの勝ちにはならんですよ。だから、クーに実力がつくまで、来てもらっても困るですよー。」 いつも食べることばっかり考えているクーではあるが、実は結構、前向きだったりする。ちょっとズレている時もあるけれど、クーはクーなりに真剣なのだ。 「あ、クー! 引いてる引いてる!」 「あややややや! ユ、ユニス、紅茶持ってて! こぼしたらダメですよー!」 タイミングよく振り上げた だけど、それはマグレなんかじゃない。クーの実力で釣り上げた大きな成果でもあった。 いつかはヌシを釣れるといいね。 どこまでも晴れ渡る 「ところでユニス。ちょいと聞くですよ。」 「どうしたの? クー。」 「考えてみるとですよ? 海の王様というと水竜になるですよ。するってぇと、水竜は今、クーだけなわけだから、つまり海のヌシはクーですか?」 「は? ま、まあ………そうなる……ね。」 「───ふごっ?! なんだとぅ!」 それを耳にしたのは 「おおおおおおおお、クーよ! お前今まで釣り上げられなくて良かったなぁ…。うかつに釣り糸に食いつけば、そこの魚のように、いまごろ焼きクーになっていたのだぞ!?」 「あわわわ…、釣りとは恐ろしいものですよ。弱肉強食ですよ。」 ユニスは心の中で、そんな馬鹿な…と思いつつも、いや、クーなら釣り針に食いつきかねない……なんて思い直したのは秘密である。
|