水竜クーと虹のかけら |
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夏という季節が近い事もあり、空を行く鳥達は忙しそうに行き交い、舞い踊る海風を涼しげに身に受けて満足そうだ。無限の広がりを持つ天空へと響き渡るのは、波と風と嬉しさの含まれる鳴声である。さんざめく風の詩が命の息吹を強く感じさせてくれている……。 この海はいつもそうだ。穏やかで温かく、そして活気に満ち溢れている。自然がもたらす恵みと生命が、 そんな海原の下の下、ずっとずっと底の方には、 全てが簡素な飾りの石で組まれたそれは、取り立てて 神殿を形成する白乳色の石材は、生命の … それもそのはずだ。ここに住んでいるのは 竜───、それは計り知れない 人間達に”ドラゴン”と それ程の神獣がこの数千年もの長き間、何事も無くここを そして面白い事に、神殿の内部は全て空気に満ちていた。まるで巨大な気泡が神殿自体に溜め込まれているかのようである。人が到達すること叶わない深海だというのに、その神殿の全てに空気の満ちた空間で、しかも明るい。まさに、竜という神秘の生物だけが持つ奇跡の御技と言えよう。 そんな、不可思議であり、とてつもないスケールの存在が住まうその神殿には、 いま、たった二人の”人の姿”が在った……。 人間でいうところの”村”一つ分ほどもある広間。彼らにとってのリビングには、低く響く男の声だけが響いている。身の丈2メールを越えるかという 彼は それは、彼からすればあまりにも小さい、ごく普通の人間の姿の幼子。 見た目通りならば、まだ5〜6歳といったところだろうか…。彼はその子に向かい、絵本を読み続ける。 「───それは遥か昔、気の遠くなるような昔の話です。 この世界には、とてもとても悪い3人の魔神がいました。 天空と無限を支配する魔神トリニトラ 海原と境界を支配する魔神ランバルト 大地と生命を支配する魔神グロリア その魔神達はそれぞれが恐ろしい力を持ち、破壊の限りを尽くして、人々を困らせました。 無限の力を 勇者はその力を使い、魔神と戦いました。 そして、7日7晩の後にその全てを倒す事ができたのです。 そして神様は────」 バシッ…! そこまでを読んだ巨漢の男は、急に それを目で追う男……父親は、一瞬だけ 「これ、クーよ。パパがご本を読んでいるんだから───」 困ったような声を向ける竜の父親だったが、娘は顔を 「 機嫌悪そうにしている幼子はそっぽ向いてしまい、父親はそんな我が子に なのに、まさかこの父の手を叩くなど……何を言っていいものか、と 人間の年齢にしてまだ5歳ほど。今は亡き妻の この娘の名は『クー』。竜の血族にして我が娘、人間と水竜の血を半分づつ持っている。その眼差しは亡き妻と 光輝く蒼い髪は海底にありてなお美しく、 竜でありながら人、人でありながら竜である我が娘クーは、彼、『水竜バオスクーレ』にとっては何よりも しかし、その 親としてこれほど悲しい事があるだろうか? バオスクーレは太古より生き抜く神の使い、神獣たる竜だ。生物の頂点たる力を持っているというのに、……たった一人の愛娘にはまったく対処できない。それどころか、その瞳には涙を浮かべて弱りきっていた。どんな強敵にも負ける事のない彼でも、クーを相手にすればただの父親。娘の不機嫌にうろたえ、なす術もない父親という悲しい生物なのである。 彼はその巨体をのそっそりと動かし、 「なあ、クーよ…。もう機嫌を直しておくれ。パパが遊んであげるからいいじゃないか…。」 ここまで反抗するのは年頃のせいというわけじゃない。理由は簡単なのだ。しかし彼はそれを許すわけにはいかなかった。クーにそれを許してやる事ができなかったのだ。 「ちっとも良くないです! クーもお友達欲しーですっ! お外に出たいです!」 これで本日5度目のセリフに、パパは頭を悩ませる。クーの言う事はもっともなのだ。もう人間の年齢で5歳になる。人間ならば同年代の子供達と遊んでいてもおかしくない年頃だ。 「しかしなクーよ。お友達なら、そのヌイグルミのペンコがいるだろう?」 「やーだーーーー!! ペンコさんは 抱きしめているヌイグルミ。それは彼女の一番のお気に入りではあるのだが、ペンコは 「でもなぁ、クー。普通の生物は……いや、人間だってそうなんだよ。何度も言うが、彼らは 「やぁ〜〜〜〜〜〜だあ〜〜〜!!」 ペンコの腕を持って振り回すクーに、そんな理屈は通じない。どうあってもお友達が欲しいし、遊びたいのだ。それを駄目だと言うのだから、非は当然彼のほうにある。クーの怒りも当然だろう。 だが、バオスクーレは知っている。人間は寿命が短いだけの生物ではない事を。 「クー、それだけじゃないんだ。人間は悪い生物なんだ。人間は嘘をつくし、人間はすぐ裏切るし、見捨てる。人間は───最低の生物なんだよ。」 「父ちゃんの言う事の方が嘘ばっかりですっ! クーはまだ誰とも遊んでないのに、そんなのどうだかわからないじゃないですか! クーはお友達と遊びたいですよー! 人間のお友達が欲しーですっ!」 水竜バオスクーレは人間が嫌いだった。 彼の言葉通り、人間は 人間の欲は際限がなく、どこまでも終らない。自ら進んで、いくらでも だから、人間という 確かに、最初は人間とも仲良く遊べるのかもしれない。しかし、もし人間がクーを人ではないと知れば、 ……いや、中にはそれを知りつつも利用する もしそのどちらでもないにしても、彼らはすぐ老いる。クーと同年代であるなど、 それでクーが悲しい思いをするくらいならば、最初から人間と接触せずに、水竜としての役目を果たしてもらいたかった。その命続く限り、『太陽の宝珠』を守るという水竜の存在意義たる役割に 「クーはお友達ほしいのっ! たくさんお友達ほしー! 父ちゃんの馬鹿馬鹿大馬鹿!!」 ついには床に寝転んで手足をジタバタとさせるクー。膨大な知識を持つはずの彼も、こんな時どうしたらいいのかわからない。 「……まったく、 バオスクーレは いや、もし生きていたとしても、人として生まれた彼女は我々とは寿命が違いすぎる。いま生きていたとしても、きっと 「もういいです! クーは父ちゃん嫌い! 大大大嫌いです! もう知らないっ!!」 クーは勢いよく立ち上がると、ペンコを抱きしめて走り去る。遺されたのは乱暴に叩かれて開いたままの絵本と、広すぎる神殿を包む 「なぁ、クーよ……。人間はな、だめなんだよ……。」 水竜神殿2F・『太陽の間』───。 神殿の中心部に位置するそこには、水竜バオスクーレが、神より預かり守る事を命じられた『太陽の宝珠』が祭られている。 神より 神はあの絵本に書かれていた通り、この力を『勇者』に貸し与えた事で、魔神達を封印したのである。 バオスクーレはその全ての だからこそ、あの戦いより一千と余年も、こうして大切に守ってきたのだ。 この太陽の間は神の奇跡と宝珠の力を利用した多重結界により守られている。水竜以外は触れることはおろか、神殿にすら その絶対無比の強固な結界と、宝珠を 彼もクーがここに入っているのは知っていたが、今後、クーが後を継ぐ事を考えれば、接しておく事もよいと考えたため、見てみぬふりをしている。クーはいつも元気で暴れる事もあるが、大事なものがある場所では暴れたりしない。だからこそ、である。 ……さて、父に大嫌いを 「ねー、太陽ちゃん、聞いて欲しいですよ。父ちゃんってばヒドイですよ。クーがお外に出て遊びたいっていうのを許してくれないですよー。」 幼くして母もなく、話を聞いてくれる者などいないクーにとって、唯一話せるのは父だけだが、それでも父と話したくない時もある。そんな時はいつもこうして、特別な存在である『太陽の宝珠』の元へとやってきて、 「クーもお友達が欲しいのにー。父ちゃんはなんで許してくれないですかねー。」 台座に両手をのせて組み、その上に 幼子がそう考えるのも、自然といえば自然なのかもしれない。星のなんたら〜と難しい話をされるよりも、彼女にとってはその方が 「ね〜、太陽ちゃん。クーにお友達ちょうだい? えーっとね、え〜っと……いっぱい遊べて、いっぱいお 見る角度や時間によって七色の虹のように色合いを変えて輝くその美しい宝珠。いつ見てもキレイだけど……、相変わらず 当然のように宝珠は返事をするわけでもなく、クーの願いは広間に消えた。 再び 願いを言ったとて、何が変わるわけでもない。 でも、願う事くらい しかしクーはこうも思うのだ。 せっかく太陽ちゃんを守ってあげているのだから、少しくらいこちらに恩返ししてくれてもいいのに……と。 「は〜、クーは そのまんま、台座から離れて背中から床に寝転ぶ。大の字のように手足を伸ばし、遥かに高い天井を見上げると、 クーはこの神殿からも出たことがない。本で読んだりしただけで、本物の空や、本物の木、草、動物も、人間さえも見た事がない。 成長していくごとに強く夢見るのは、空と海と大地があり、様々な生物達、そしてお友達と楽しく暮らすという光景。目を閉ざせば浮かぶ見た事のない光景。クーは でも、父は許してくれない。ずっとここに居ろという。 そんなの でも、神殿から外に出ようにも、水の壁が邪魔をして外へ泳ぎだす事ができない。父の張っている結界のおかげで神殿に水が入ってこないのだけど、クーが出る事もできない。だから、クーは水竜だというのに泳いだ事さえなかった。 結局、外に出るのは夢でしかなかった。 夢は寝てから見るだけのもの。 わずか5歳ではあるが、 だから、いまは 「……お友達一人……。一人でいいから…欲しいなぁ…。」 これも、数年前から何度となく繰り返してきた事だった。 いつもいつも、そう願っては何事もなく時間は過ぎていく。きっと自分は、このままお友達一人も出来ずに、お婆ちゃんになっちゃうんだ。…なんて想像さえもしてしまう。 でも、今回だけは違った。───太陽の宝珠が、突然、輝きを放ったのだ! 「えっ───わ、わああぁ!! 太陽ちゃんが、ひ、光った!??」 クーの目の前で光度を増していく太陽の宝珠。これまで光もしなかったそれが激しく輝き出したとなれば、 「あややや! な、なんだか光がどんどん強くなるですよ! クー何にもしてないのに! 父ちゃんに怒られるです!」 そんなクーにお構いなく、輝きはさらに強さを増していく。こんな事は初めてだし、こんな事が起るなんて思ってもいなかった。それが自分の願いを聞き届けた証だなんて、気付くはずもなかった。 しかし、その輝きはどんどんと増していき、ついには目も開けられない程に 自分の中へと何かが通っていくような奇妙な感じ。気のせいかと思ったけどそうじゃない。これまで感じた事もないような大きな力、 「あ、熱い………足が…熱いよっ!」 急に右足に燃えるような熱を感じた。流れ込んだそれが、自分の右足へと力が 燃えるような高熱。しかし、炎が噴出しているわけでもない。だけど、どうしようもなく熱いっ!! ……一体、自分はどうしたというのだろう? 何が起っているかもわからずに、クーはそれに耐えるしかなかった。 「クー!! どうした! 何があった!?」 そこへ駆け込んできたのは父、バオスクーレだ。宝珠が異常を発したのを感知し駆けつけたのだ。そして、太陽の宝珠より放たれた力がクーに注がれているのを見ると、その事実に驚く! 自分の持つべき紋様”がクーの足にも現れていたからである! 自身が体の各所に宿すこの”紋様”は、太陽の宝珠から力を引き出すために必要な鍵、秘められし無限の力を現世に流すための蛇口のようなものだ。それがクーにも現れた。我が娘は、まだ5歳だというのに、7つの紋様のうちの1つを宿した事になる。 太陽の宝珠を守ることこそ水竜の役目。力を悪用されないため、その力の一部を扱う事が出来るようにするための印がこの紋様だ。いつかは自分のように、7つの紋様が身体に浮き出るとは思っていたが、まさかこれほど早く現れるとは思わなかった。 これはクーにとっても、自分にとっても喜ぶべき事だ。クーは竜と人との間に生まれた子ではあったが、紋様を宿した事で水竜としての使命を真っ当する事を許されたのだ。親としてこれほど喜ばしい事はない。 「クー、 すでに輝きは収まり、クーの右足、 「ああ、神よ…。我が主よ、娘に力を バオスクーレはいつになく上機嫌だった。 娘の成長を感じ、また将来の姿を描く事が 水竜の役目を ───だから、 宝珠が発動した原因が何かまでを考えなかった。水竜の力の まさか、紋様一つで願いを叶えられるとは思っていなかったのだ。本来ならば7つ その結果として、”あれ”が現世へと復活してしまった事にも気がつく事はなかったのだ。 それは神とその 自身で読み聞かせていた絵本にも登場していた文明を そのうちの一人、『 もし気がついていたら……この親子の運命は、また違った方向に流れていたのかもしれない…。 五半刻後……。(あれから5時間半) すでに外の世界では太陽も沈み、夜の時間を迎えていた頃だった。バオスクーレが立ち去り、戻る気配がない事を確認した、”それ”はゆっくりと身を起す。 そして、 「フ…フフフフ……、現世か。とうとう…戻ってきた…。戻ってきたぞ! あれから何年経ったのだろうか?」 『海原と境界の魔神ランバルト』。まさしくその本人であるそれは、”彼女”であった。 魔神である3人は元々が姉妹としてこの世に生を受けた。女神のごとき美しさと神以上の力を そんな彼女は今、身体に 「ぬぅ、なにか…… よろよろと、 「体の感覚が狂っているのか…? どうしたというのだ? 復活直後の異変のようなものか?」 封印されて復活などこれまで経験がないため、どんな問題が起るか予測もできない。もちろんフルパワーでの復活はないだろうが、それにしても視点が低すぎるのは気に掛かる。いかに力が万全でなくとも、人の身体である以上、視点の高さは変わらないはずだ。 しかし、自身の身体を確認にも、部屋が暗く、目も慣れていないせいかよく見えない。 だが、落ち着いて回復を待っている場合でもなかった。今のこの頼りない状態であの水竜に見つかってしまえば、簡単に滅ぼされてしまうだろう。だから、ランバルトは身体を確認するよりも、まず必死で広い部屋から歩み出で、安全を確保する事に専念した。 「ふぅ…ふぅ……。なんとか、部屋から出れたようだ…。しかし、なんと広い部屋だ。まだ廊下では隠れる場所もないではないか。このままではあの水竜に見つかっ…………………。」 廊下の壁は 「…………………なんだ? ……このブサイクな鳥は……。」 身体は紺色。口から腹にかけて体は白く、口には黄色いクチバシがついている。そして何よりも、やたら目つきが悪い。そして極め付けが、あってないような短い手足。まるで、丸いクッションに申し訳なく付いている短い手足がデブな鳥を思わせる。 「なぜこのようなブサイクな鳥が映し出されているのだ??」 自分は海原と境界を支配する魔神。人の身を持ち、至宝の美しさを持つはずの戦神。しかし、目の前には妙ちくりんなデブ鳥。一応はペンギンという生物……なのだろうか?? しかしこれは……いったい……。 ランバルトは右手を上げてみた。すると、壁の中のデブ鳥も鏡のごとく右手を上げる。 次はそのまま、左足を上げてみた。すると、同じく右手を上げたまま、左足を上げるデブ鳥……。 「ぬ、キサマ……私の真似をするなどと…、殺されたいのか?」 ランバルトは目つきの悪いデブ鳥を いきなり敵の しかし当然のように、壁に繰り出されたパンチは軽い音と共に跳ね返り、体勢を崩したランバルトは床にころり、と転がった。……そして、ふつふつと怒りの炎が 「……ぬぅぅぅぅぅぅ!! どういう事だ! 一体ぜんたい、どういう事なのだっ!!」 気がついていないわけではなかった。まさか自分が、このような姿で復活するとは思ってもなかったのである。この姿は間違いなくクーのお気に入りのヌイグルミ、ペンコだった。魔神という 「か、神め! 許さん! 許さんぞぉ!」 起きる事も忘れて、やるせない怒りを大声にして叫ぶランバルトだが、その怒りは中断せざるを得なくなった。それというのも、このヌイグルミの持ち主、クーが戻ってきたからだ。 「ペンコー、ペンコさーん、どこです〜?」 さっきの痛みは お気に入りであり、遊び相手でもあるペンコは、クーの大切な友達だ。そんな相手なのだから、力が ランバルトが復活したのはクーが これでは復活しても全力など出せるわけがない。復活そのものは有難いというのは確かだが、これはこれで非常に困る。しかし、それを考えている 「こ、困ったぞ……。あの小娘はともかく、親の竜に見つかるわけにはいかん。ど、どうする……?」 力が完全であれば、親竜だろうが竜の1匹ごとき恐るるに足らない相手だが、いまのこの姿で、しかも力の 「な、ならばここはっ!」 ヌイグルミに あまりにも 「あー、いたいた。いたですよ! ペンコさんここに居たですよ。」 先ほど倒れたとは思えない程に元気さを取り戻している水竜の小娘クーは、嬉しそうにペンコを拾い上げた。ひとしきり喜んでから、急に頭を 「あれー? そういえば、クーはペンコさんをあっちに置いといたはずですけど……。」 「(…ウソつけ小娘。キサマは”置いた”のではなく、床にほっぽっておいただけではないか)」 広すぎる太陽の間を苦労して歩いたランバルトは、文句を言いたいが口を聞くわけにもいかない。まったく…我が愛しき妹ならば、このようにヌイグルミを 「ん、まあいいですよ。どういう風の吹き回しか、父ちゃんがケーキ作ってくれるっていうから、ペンコさんも一緒に来るです。」 にっこりと笑顔になったクー。ケーキを食べれるのが嬉しいらしく、先ほどの 「あー!! そういえば忘れてたですっ! 太陽ちゃんに言っておくですよ!」 再び何かを思い出したらしいクーは、抱きしめたばかりのペンコ(ランバルト)を放り投げ、自分は太陽の宝珠へと走っていく。宙に舞うヌイグルミであるランバルト…───しかし、彼女はここで受身を取るわけにはいかなかった! もし受身を取るところを見られれば───(以下略 ゴッツーーーーン!! 「(ぐふっ! お、おおお、おお……。)」 受身を取れず、激しく頭をぶつけるランバルト。今の体は 「(く、くそっ! なんたる屈辱か! 今にみてろ小娘、キサマなど力が戻れば瞬殺できるのだぞ!)」 そう叫びたいが、今は我慢するしかない。文句さえも言うわけにはいかない立場だ。なんともやるせない。 しかし、なんというガサツな娘だろうか? 物は大切に扱うものだ。世界を崩壊させた自分が言うのもナンだが、この娘はおおざっぱすぎる。あの親竜め、 「太陽ちゃんにまた来るって言っておいたですよ。さあ、ペンコさんも行くですー。」 クーは上機嫌で、ペンコの足を持つと、そのままずるずると引きずって走り出す。 「(ま、ま、ま、待て小娘! ヌイグルミは足を持って運んではいかん! そこに段差が──、ぐはぁ!!)」 段差という名の凶器が、引きづられて行くペンコの後頭部を直撃する。ランバルトは屈辱と痛みを我慢するのに必死であり、文句を言いたくとも言えない状況にただ耐えるしかなかった。 そして、今後の苦労を思うと、封印されたままの方が良かったのではないかと、うっすらと弱気になってみたりもした。
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