水竜クーと虹のかけら |
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「よぉ、目が 僕は見知ら声を耳にしながら、意識を取り戻した。 どうやら、知らないうちに気を失っていたらしい。固めの 「………ここは…?」 「ああ、 今だ ゆっくりと視線を向けてみると、そこには白を基調とした服装に、金糸で 老人の持つ白髪という感じではなく、 「まだ意識がはっきりしてねーのか。まあいいさ。俺はご覧の通り水竜神殿の神官でな、女王陛下から倒れたお前さんの面倒を見てろと言われた。まあ、お 「そう…ですか……。」 僕は返事するだけで精一杯で、彼がどういう人であるかなど気にならなかった。どんな者だろうと、今の僕にはどうでもいい事だ。それに、 「それでなぁ、お前さんの 神官を名乗る白髪の男は、煙草を口に 「あ………。ありがとう…ございます………。」 これを返すべき人は、もう居ないのだ。 「…………う………ううう………。」 涙に 「ごめんなさい……、ごめん……なさい……。」 次々と流れる涙を 救えなかった。助けられなかった。あんなに優しくしてもらったのに、あんなに沢山の喜びをくれたのに、僕は何もできなかった。ただ母上に叫びをぶつけただけで、何も変える事が出来なかった。 間者だろうと、そうでなかろうと構わなかった。事実なんてどうでもよかった。僕は師と共に居たかっただけ。たったそれだけの事を望んでいたんだ…。 なぜ僕は、王子なんだ? なんで僕は、王家に生まれてしまったのか? この先、僕はまた一人で、また ……そうやって、彼の死を 僕にはもう、何もない。 誰に頼る事もできず、誰かと楽しみや喜びを共有する事もない。 前はそれを ……でも、 優しさを与えられてしまったから、忘れる事のできない喜びを感じてしまったから、 僕にはもう一人は絶えられない。絶えられるはずがない。 一人はいやだ。もう一人はいやだ。僕はまた一人になってしまう。 それが、とてつもなく 「王子さんよ。ちょっと泣いてるトコで悪いがな、あの爺さんから伝言をもらっておいたんだよ。お前さんに。」 「…………………伝言……?」 神官の声に、 「まあ、神官らしい仕事をしなきゃならなかったんでな。一応は伝えておくぜ。……あの爺さん、庭園で 彼はそう言って、 「 僕はその言葉をすぐに理解していた。だってそれは、ここに来る前に僕が 「ああ、なんだ。やっぱりそれの事かい。」 白髪の神官が 「……まあ、神官の俺が言うのも問題だけどな、幸運付きの品だなんてのは、ただの思い込みだろうけどよ……とりあえず、形見くらいにはなるんじゃねえの?」 それは無神経な言葉。…だけど、いまの僕には、そんな声すらも届かない。ただ悲しくて、悲しくて、その 「…………そう…ですね………。」 「だよなぁ? そんな小汚い 神官としては 自然と……知らないうちに、体が熱く、気持ちが強くなっていく。僕の心の中にある想いが、瞳から涙となって流れていく。そしてローテン師の 「そうだよ…、幸運だなんて…そんなのは… 銀貨を強く 幸運が 体がさらに熱くなる。気持ちがもっと強くなる。 幸運があるなら、なんでローテン師は殺されたのか? そんな力があるというのなら、彼は死ななかったはずじゃないか! 「お、おい! 王子さんよ! どうしたんだお前?!」 神官の声が部屋に 「ま、待て王子! お前、そんな魔法で…何す────」 「そんなの嘘だぁぁぁぁっ!!!!」 様々な ───気がつくと……、 僕は見知らぬ場所にいた。初めて見る場所。 それは木々の 天よりの陽光に包まれた水面は、風が 「……………。」 声も出ない。ただ無心のまま、美しいとだけ思った。 周囲にある森と、目の前にある湖を、 なぜ僕は、ここにいるのだろう? それを思考する頭は動かず、ただ絶望に よく見れば、右前方の……かなり離れた場所に、イスガルド王城が見えた。 外から見た事はあまりないけれど、間違いない。はためく国旗と外観から すると…、ここは………。 考えられるのは一つだけ。ここは、ローテン師と来ようと考えていた湖だ。穴が空くほど地図を見て、必至に覚え、隅々まで暗記したくらいだ。その地図からすれば、湖から見える王城の位置も合っている。間違いない。ここは釣りをしようとしていた湖だった。 「…… 何日も練習していた高位の転移魔法。どうやら銀貨を握り締めていた僕は、ずっと望んでいた場所へと転移してしまっていたようだ。訓練では一度も成功した事がなかったというのに、今日この時に限って、成功した……という事か。魔法を使うつもりなんてなかったというのに…。 だけど 今更、ここへ もうここへ来る意味なんてない。 もうすでに…、ローテン師は あの笑顔も、楽しい 僕はなぜ、全てを失ったというのに、ここへ来たのか? 何もかもが遅いというのに、なぜここへ来てしまったのか? 何かが起こる前に来なくちゃいけなかった! そう思えば、もうこれ以上、美しい景色など ただただ、後悔だけが押し寄せ、僕を心を 「この世界に、幸運なんてない。」 僕は手に握る 大人が生きる現実という世界には、都合のいい 「僕にはもう、希望なんてない。」 きっと母が全てを握っている。 きっと、この いつかは幸運が そして……そう願うだけで、想いは わずかな希望を抱いても待つのは絶望だけだ。願いなど叶わない。 「ローテン師…。こんなモノを僕に 最初から期待しなければ、苦しまなくて 「僕には………これは…いらない………。」 消えてしまう希望なら、最初からないほうがいい。 ───だから僕は、湖に向って思いっきり もう何にも 僕は希望を捨て去らなきゃならない。…この涙と共に。 ローテン師の 「 「いっつ〜〜…、なんか鼻に当たったですよ〜。」 「どうした、クーよ。……む、なんだこの小汚い 湖から声がする。 「ちょうどビミョーな場所に当たったですよ〜。痛てぇですよ。」 「ギャーーーー! ク、ク、ク…クーよ! お前、鼻血が出てるぞ! おのれ…、我々の浮上と同時に攻撃するとは何ヤツ!? こういう時、なんと言うのだろう? 目が点になるとは、こういう事なのだろうか? 余りにも ……ほどなく、固まっていた僕を見つけたその蒼い髪をした 「やい! そこの 「ぎゃああ! バ、バカクーめがっ! 私の背中で鼻血を 湖から顔を出す、鼻血が出っぱなしの蒼髪の女の子と、ヌイグルミらしきペンギン。なにがどうなったのか、状況がまったくわからない。彼女の鼻に……投げた 「おのれ…犯人! クーは許さんですよ! 問答無用ですよ!!」 その あまりの痛みで、目から火花でも散るかのよう。そのまま目の前が暗くなり、気を失いそうになる。 とてつもなく痛い。 「わっはっはっー! それみた事かですよ。江戸っ子七人集も言ってるですよ。” 「いや待て、クーよ。……こう言ってはナンだが、お前、思いっきり反撃しとらんか? 罪だけでなく人も 「ランちゃんは細かい事、気にしすぎですよ〜。」 「う〜む…、江戸っ子は難しいな……。」 ───僕の全てと共に捨てたはずの それは まるで、ローテン師が僕を 僕はこうして、水竜クーに出会ったんだ。 彼女がラファイナで そして正座させられ、さんざん あとで考えてみれば、僕とクーの運命はここから 絶望の そして同時に、 僕の人生での最高の 命が 僕はこの瞬間から、全力で生きる事となる───。
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