その1 「大王ゴブリン、やっつけれ!」
「あー、ダイジョーブだってばさ。あんな無駄に頭のでっかい緑に負けるはずないやん。」
長〜い赤色の髪は2本のおさげで、太陽の光を受けて輝く瞳もルビーのような赤。前髪のクセっ毛と帽子がトレードマークの女の子、「アカさん」と呼ばれる彼女は、大口を開けて笑いつつも、小指で耳掃除などおります。どうやら、片方の耳に当てた携帯通信機で誰かと話している模様です。
「で、ですけどね! 何度も何度もボコボコにされて、この前もムキー!…ってなってたじゃないですか。もっとLVを上げろとは言いませんけど、せめて回復用クッキーくらいは持って行かないと……。」
その通信相手も女の子。だけど、心配そうに声をかけてます。
真っ白の腰まで届く髪は流れるような滑らかさ。エメラルドの光を宿す瞳は現在、とても困ったように見えます。こちらの女の子の名前は「フルーレさん」です。いっつも無茶をするアカさんを、またもや注意しているところです。
「わかってないなぁ、言っとくけどボクってばLV40だよ? 39じゃなくて40だよ? ゴブリンなんてザコモンスターは素手でも倒せるんだよ? やつらのアジト、プルトン神殿なぞ5秒で制圧できるって。」
「いえ、物理的に5秒は無理ですから。」
フルーレさんは速攻でキッパリとダメ出しするものの、通信相手のアカさんは聞いちゃいません。ちょうどいま、耳掃除が終ったトコです。
「まったく! 最近の若いモンは夢がないね! 夢は持ち続ければ叶うんだよ!」
「5秒は絶対無理ですってば! それより、何が最近の若いモンですか。…私と同い年のくせに。…もう、しょうのない人ですね。」
…まあ、フルーレさんにしてみれば”いつものこと”なので、説得は無駄だとは思っているのですが、一応は友達なので、一応は声を掛けるのです。一応、心配なので。
「まあ、そういうワケだからさぁ、ちょっくら行ってくるよー。」
「何がそう言うワケなのか、すこぶる疑問ですけど……、危なくなったら逃げてくださいよ? また負けて経験値3%減ったって泣くんですから。」
「イエッサー!!」
軽快な返事を残し、アカさんは通信を切りました。さすがにLV40なので負けるはずがないとは思うのですが、それでもフルーレさんは心配です。…なんせ、アカさんってば、これまで6回以上も”大王ゴブリン”なるモンスターにボコボコにされているんですよね。
緑色をした大型モンスター、大王ゴブリン。
みょうに頭がでっかくて、鉄球を投げつけてくる力持ち。プルトン神殿をアジトにする、ゴブリン達の王様です。やたらと緑です。
フルーレさんも前に一度だけ出会った事があります。神殿にワープしたその場に大王がいて、ほぼ一撃で倒されてしまった事があるのです。運が悪かったというのはあるのですが、それでもちゃんと強さは実感しました。その攻撃力は、本当にすさまじかったんです。
確かに強いんですよ、大王ゴブリン。…新米の冒険者にはキビシイ相手と言えるでしょう。
しかし、アカさんもアカさんです。毎回負けているくせに、大王なぞザコじゃん!…などと言いつつ、あなどっているうちにHPがゼロになっているという、あまりにも情けない負け方をしてます。その度に、死亡ペナルティで経験値を減らされて泣くわけですから、こりない性格をしていると思います。
「はー…、そろそろ倒してくれるとよいのですが……。」
ピロロロロン…! ピロロロロン…っ!!
なんて事を考えていたフルーレさんの元に、またもや通信が入りました。
慌てて通信機を耳に当てると……。
「うわああああん! おかしいよぉ! なんで負けたんだよーーーー!」
アカさんでした……。
「はやっ! もしかして、もしかしなくとも……もう負けたんですか?」
なんという速攻! なんという弱さっ! 数分前の余裕はどこへ消えたというのでしょう? アカさん連敗記録どころか、最速死亡記録までが更新されてしまいました。なんとなくですが、今回も負けるんじゃないかな、とは思っていたのですが、……まさか、ここまで速攻だとは思いませんでした。
「ちょっと聞いてよー! 大王なんてザコだろうから手加減しようと思ってさ、武器を外してみたんだよ。そうすると自分って蹴り攻撃になるじゃん? それが楽しくてさぁ、夢中になってたら死んでたんだよーっ!! うわあああん! ひどいやー!」
「…………ごめんなさい。頭痛がしてきました……。」
本当に、こりない人です。まあ、アカさんらしいといえば、アカさんらしいのですが。
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