その13 「トキメキBOX! レア超大当たり!」
トキメキボックスという”おみくじアイテム”が導入されたんです。中身は様々ですが、大当たりでNPCの「ミニチュア人形」が入っていれば、特別アイテムと交換してもらえる。
このジエンディア大陸では、そんな制度が盛んに行われていました。どんなアイテムが当たるのかな? 放浪者のみんなは、ワクワクしながら箱を開けていました。
開けていたのですが………。
「ちょっとさぁ、歩きにくいんだよ。なんなのさ、この空き箱の山は!」
「これ全部、トキメキボックスの箱みたいですよ?」
エリアスの住宅街を歩いていたのは、いつもの二人。一人は赤い髪をながーい二つのお下げにした元気の良さそうな女の子、アカさんです。
槍が得意で、なかなか強いLV50。でもやられてばっかりなトコあります。
「そしてもう一人。真っ白な雪のような髪と、地獄の底まで凍らせる冷血な瞳、さらに毒しか吐かない悪逆非道の口先に、サラ地のような鉄板胸をした魔性の女───、その名も……」
「そこっ! 勝手に人の解説を変えないように! なんですか!? その毒だの悪逆だのは! どういう事ですか?! どういう事なんですか!?」
「ぎゃあああああ! NO! ノォー! ほっぺがちぎれてしまいマス!」
……と、いつものように、ふざけたアカさんが白髪の女の子フルーレさんに、「ほっぺた両側引き伸ばしの刑」にされております。…まあ、毎度の事ですねぇ。
彼女らは、このジエンディアという世界を巡る放浪者、いわゆるプレイヤーキャラ達なのです。二人の関係は見た通り、ボケとツッコミです。
「違います! なんですか、その投げやりな解説はっ!!」
「まあまあ、フルーレ君。いいじゃないのさ。SとMのコンビとか言われてたら、そのまんまで言い返せないからねー。」
「それも違いますっ!!」
……などと言いつつも、実際はいつもアカさんが妙ちくりんな事を始めて、フルーレさんがツッコミを入れる。そんな関係です。しかしフルーレさんは、苛められて文句を言いつつ、実は喜ぶ方です。
「だから違うって言ってるでしょう!!」
さて、二人の周囲にはトキメキBOXの開き箱が山の様に転がっております。みんな空けるだけ開けて、箱は投げ捨てているからです。……中には、どうでもいい道具が出たので、それごと捨てている人もいるようで、ガラクタがゴロゴロ落ちているのです。
「私達はただ散歩しているだけです。」
「そうだよ。ぜんぜん拾ったりとか、回収したりとかしてないよ。」
「いくら私達が貧乏だからって、落ちているモノを拾うだなんて…。あ、アカさんあそこ!」
「うっひょう! 牛乳だよ牛乳! これまだ飲めるかな? 飲めるんかな?」
「アカさん見てください! こっちはメロンですよ、メロン! 信じられますか!?」
「…………………。」
「………………………。」
「散歩ですよね? アカさん。」
「うん、そりゃあもう散歩だよ。当り前さね!」
二人は自分の言葉に悲しくなっていました。人間、追い詰められると手段を選ばなくなるのです。拾って生活費の足しにするくらい、許してあげてください。
「ううう……、みんなビンボが悪いんだ…。」
「しっかりしてください、アカさん。月末になればクエストクリアの報酬が入るんですから…。」
彼女らはいつも貧乏なのですが、今回はこれまでになく貧乏なのでした。
前回の話で贅沢アイテムを使いまくりましたからねぇ…。
そういうわけで、現在スッカラカンなのです。ルビージェムすら買えません。少なくとも、月末までは耐え忍ぶしかないのであります。
「はぁ、いくらお腹に入るったってさぁ、…牛乳とメロンだけとか、ひもじすぎるっしょ…。」
この路地には、表通りから運ばれてきた箱の残骸が山ほどあるので、探せば探すだけ何かがGetできます。そして箱だけを雑貨屋に持っていけば、10Gで引きとって貰えるので、月末までは毎日こんな生活。
…いい歳の乙女がゴミ漁りなどと……。
「書いてるアナタがやらせてるんでしょう! さっきから何ですかっ!」
「……フルーレが怒るとマジ怖いから、ボク止めない。」
……コ、コホン。えー、話を戻しましょう。
さて、二人はかれこれ30分も色々と探していたのですが……。今日はめぼしい品もないようです。諦めて帰ろうかなぁ、と思っていたアカさん。ちょうどよく、それを見つけてしまいました。
目の前には、一つだけ開いていない箱があったのです。
アカさん達にはカギを買うお金がなく、一度もあけた事のない箱。
だというのに、その未開封の箱の前には、鍵が落ちていたのです!
高くて買えないはずの鍵が! 使わずに残っています!
「うおおおおおおお! こりゃあ空けていいって事だよね!? うしししし…、フルーレはまだ向こう探してるな。……じゃあ、空けちゃおっかな〜。」
何が出てくるか、とワクワクしながら、かな〜り嬉しそうに鍵を回し、箱を空けるアカさん。
ゆっくりと解除、そして蓋を開くと、
……中には、
どう考えても景品ではない品が入っていました。
やたら目付きの悪い幼児が、じーとこちらを見ていたのです。
「このガキ………、なんぞ?」
その幼児は、頭にアザラシの皮らしきモノを被っており、少し覗いたサラサラの金髪。そして青に輝くキラキラの瞳が、”ナンヤワレ! 見てんじゃねぇ!”みてえな冷酷な視線で、アカさんを貫通するほど睨んでいたのです。
それを受けた瞬間、あろう事か……アカさんも”やんのかオラ!”と言わんばかりに、不良っぽく座って、ガン飛ばしはじめました。視線の先で凄まじい火花が散っております。
「ちょっと、アカさん! 何やってるんですか!?」
ポコーン…と、いい音。
なーんにもにも入ってない頭に軽いチョップを食らったアカさん。
見上げるとフルーレさんが覗きこんでいました。どうやらフルーレさんには、アカさんは幼児をいたぶる悪党に見えたようです。実際そうですし。
「だってさー、こいつボクにケンカ売ってくるんだもん。そりゃあ相手になってやるさ!」
「子供相手にそういう事しちゃいけません。」
まったくです。幼児相手に大人げの無い態度です。むしろ、児童虐待です。警察の人にタイーホされます。
「え〜と。アナタどうしたんですか? こんな所で。おうちは近くですか?」
いまだ警戒している幼児に優しく話しかけるフルーレさん。いや、偉いとか、偉くないの問題ではなく、これが普通なんです。いきなり幼児相手に最初からケンカ売るアカさんがアンポンタンなだけで、これが当たり前の対応なのです。
一方、じっと見るだけで何も言わないアザラシ頭の子供。少々困ったフルーレさんは、そうだ!と思い出して、回復用のクッキーをあげてみました。2段重ねのクリームがたっぷりのやつです。
すると、アザラシ幼児はクッキーをひったくってガジガジ食べ始め、代りに腰のポシェットから、一枚の手紙を出してフルーレさんに渡します。
フルーレさんとアカさんは、一緒になってその手紙を読んでみる事にしました。
中には、ミミズののたくった様な字で、こう書かれていました。
”おめでとうございます! 大当たりです!!”
”超レアな「目付きの悪い、なまいきチョーキー」でございます。大切に育ててください”
”私はもう疲れました…”
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……どう見ても、罠にしか思えない未開封のトキメキBOXと、都合よく落ちてた鍵。それに加えて、急いで書いたらしい手書きの手紙……。
「この最後の、疲れましたって……?」
その辺はよくわかりませんが、とんでもない品をGetしてしまったようです。なぜ未開封の箱と、都合よく鍵が置かれていたのかは、考えない方が正解なのかもしれません。むしろ考えてはいけません。
アザラシ頭のチョーキーさんは、フルーレさんのスカートをちょいちょい、と引っ張って言いました。
「腹へった。」
……これが、アザラシ幼児チョーキーこと、チョーさんとの出会いだったのです。
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