その7 「水晶炭鉱へGO!」
「はて…、アカさんはどこ行ったのでしょう??」
遊びに行ってくる!…と言い残してアカさんが飛び出して行ったのは、まだ日も高いお昼頃の話。一体どこへ行ったというのか、あのアカさんが「おやつの時間」になっても帰ってきませんでした。
せっかく腕によりをかけてプティングを作ったフルーレさんでしたが…、帰って来ないんじゃ仕方がないという事で、とりあえずお風呂に入る事にしました。
ああ、お風呂です。木造りのキレイな湯船ですよ。…貧乏なせいもあり、宿でお風呂なんて久しぶりなフルーレさん。まったりとお湯に浸かってます。かな〜り幸せです。(このところいつも寒い中での温泉だったので。)
ドタドタドタドタ……!! ───ガラッ!
「ちょいとフルーレさん、聞いておくれよ!」
「きゃあ! お、お風呂入ってる最中に突然なんです?! あとにしてくださいよ!」
急にドタバタと騒がしくなったと思った途端、アカさんが勢いよく扉を開けてお風呂に登場しました。足から顔から泥だらけです。
「Oh! いや〜ん! のっけから読者サービスとは抜け目ないね! このアダルト大王!」
「誰がアダルト大王ですかっ! 文章でのみの話で読者サービスもへったくれもないでしょうに…。」
フルーレさんは溜息とともに、肩まで浸かっていたお風呂から出て、バスタオルを巻きつけます。このイタズラ大好きなアカさんを前にして、のんびりお風呂など入っていられるわけがないからです。
「はー、まったく…。しょうのない人ですね。」
ホカホカなフルーレさんは、濡れた頭にもタオルを巻いて、部屋に出てきました。濡れたままだと風邪を引いてしまいますし。
しかしアカさんは、そんな事など知ったこっちゃねえ、とばかりに瞳をキラキラ、体をうずうずしながら待っていました。まったく…、同じ年齢だというのに、この落ちつきの差はモノスゴイものがあります。
「それで、…どうしたんですか? そんなに泥だらけになって…。また妙ちくりんなイタズラをしてきたんでしょう?」
「いやいやいやいや、ボクがいつ妙ちくりんなのか、いささか疑問だがね。…それよりもさ、チケットを手に入れたんだよ。水晶炭坑の入場券。」
アカさんが両手で差し出したのは、見なれない縦長の紙。それは「水晶炭鉱入場チケット」でした。お店には売っていないという貴重な品です。これがあると、特別な鉱石が採掘できる水晶炭鉱という場所に入場できるのです。
「わ、よく見つけましたね。私達のLVじゃレアレアなアイテムなのに。フリマで買うと高いですから。……で、それはどこで手に入れたんです?」
「うん。アリの洞窟で虐殺しまくったら落した。」
「虐殺いわないでください…。」
静かに暮らしていたアリさん達の巣に、いきなりアカさんが飛び込んで倒しまくった、というのは、いくら悪いアリとはいえ、少々かわいそうな気がしてなりません。
「でもさ、でもさ! これがあるとだよ? ガーネット集められるんだよ?!」
アカさん達の身につけている装備品は、自分の力に合わせて強化する事ができます。しかし、ガーネットという宝石がないと強化はできません。そのためには水晶炭坑で採掘をしなければならないのです。
ガーネットもフリマで買えるのですが、これがやっぱり高額で、とてもじゃありませんが手が届かないのです。二人はとっても貧乏なので。
「じゃあ、アカさん。頑張ってきてくださいね。そのチケットで30分は入れるんでしょ? なるべく多く拾ってきてください。」
「何言ってるのさ? フルーレも行くんだよ。チケット2枚あるんだからさ。」
ニンマリと笑みを浮かべたアカさんは、懐からさらにもう一枚、同じ「30分チケット」を取り出しました。もちろんフルーレさんは驚きます。
「2枚もだなんて……。ホントにどうしたんですか?」
「だから、虐殺しまくったんだってば。」
「……だから虐殺いわないでください…。」
とはいえ、一枚で30分の間だけ、水晶炭坑に潜っていられる入場券をGrtしてきたアカさん。使った瞬間に体が炭鉱に転送されるという…どういう仕組みかわかりませんが、とっても凄いチケットには変わりありません。
「じゃあ行くよ? それっ!」
「へっ………ちょっ! ちょっと───!!」
アカさんは一気に2枚のチケットを勢いよくちぎります! その途端、二人は眩い光に包まれていきます。とても目を開けていられないほどの光に、動く事もできません。
そして、フルーレさんが次に目を開いた時……、目の前にはきらびやかな岩だらけの洞窟が広がっていました。
そこにある岩の全てが宝石を含んだように輝き、それが洞窟全体にまで広がっていて、ありとあらゆるモノを輝かせていました。こんな炭鉱は見たことありません。とっても素敵な場所です。最高です。
タオル一枚でなければ……。
「どういう事ですかっ!! アカさん! どういう事なんですかっ!」
「No! ノォォ〜〜! へるぷっ! ほっぺがグリグリと潰されているように思われます!」
「潰してるんですっ!!」
両側からほっぺたをぐりぐり押さえられ、思い切り潰されているにもかかわらず、アカさんはヘラヘラしっぱなし。どうやら確信犯のようです。わかっていてチケットを使いやがったのです。まったく…、本当に悪い子ですねぇ。
「どーーーするんですかっ! こんな所に30分もっ! だ、誰かに見られたら…、それどころか風邪を引いちゃいます! モンスターだって襲ってくるでしょう?」
「いいじゃないのさー。大人になるってそういう事なんだよ。」
「おだまりっ!」
アカさんは気にしちゃいねえ、とばかりにしゃがみ込むと、背中の、猫さんがプリントされたリュックを降ろしてアイテムを取り出しました。木の棒に金属がついた道具。どうやら折たたみ式のようで、金属部分がカクンと動きます。
「………アカさん、これは…………?」
「もちろんツルハシだよ! さぁ〜、頑張って採掘だよ!」
「ああ……、もうイヤ……、こんな生活…。」
何を言っても無駄なので、フルーレさんはどこか納得できないまま、しかし諦めながら半裸で採掘を始めました。誰かが来ても見られないように岩陰に隠れつつ。風が吹いてめくれてしまわないよう必死に考えて。(たぶん赤龍と戦った時より必死)
普通に考えた場合、こんな格好で採掘なんてするわけがないのですが、そこはシビアなフルーレさんです。せっかくのレアチケットを無駄にするのは惜しい、と考えました。あんがい逞しいのです。それにこのまま何もせずに帰るのも、無数に叩きのめされたアリさん達に申し訳ないですし。
「アカさん、帰ったらたっぷりお説教ですからねっ! いいですね!?」
「ラジャー!! じゃあさ、一緒にお風呂入ろーよ! あひるのオモチャ買ったんだ〜。」
「も〜。困った人ですね……ほんっっっっっっとに!」
ただ陽気な性格のか、それとも物凄い大物なのか…、アカさんのハチャメチャぶりに振りまわされるフルーレさんは、本日2回目の深い溜息をつくのでした…。
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